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2012 年02 月20 日

Q: ハーグ条約について教えて下さい。

A: ハーグ条約については、現在、大変多くの方が関心をお持ちです。
 昨年5月、条約締結に向けて準備を始める旨の閣議了解がなされ、今月に至っては、法制審議会の要綱案が正式決定されて法務大臣に答申されるところまできました。今後、今国会に法案が提出されて承認される可能性があります。
 ハーグ条約についての情報は、暫くは常にアップデイトしていく必要があろうかと思われます。
 今日のこの情報も、すぐに陳腐化するでしょう。
 したがって、その時その時に可能な情報を、時期に応じて追加していく所存です。
 そこで、まずは、条約の締結や法律の公布の前に、そもそも条約内容レベルで重要なことを書き留めておきます。
 1 ハーグ条約が日本で効力を生じる前になされた、子の連れ去り又は留置は、条約に基づく子の返還手続の対象とはなりません。
 2 ハーグ条約が日本で効力を生じるのは、日本が条約を批准した後3番目の月の初日です(つまり、例えば2月中に批准をしたならば、その後3番目の月とは、5月ということとなり、その初日、すなわち5月1日に発効するということとなります)。 (平成24年2月20日)

 3 子を常居所地国に返還しなければならないのは、子が16歳未満である場合に限ります。
 4 子の連れ去り直前に、子がハーグ条約締結国に常居所を有している必要があります。すなわち、日本がハーグ条約締結後、日米の国際結婚夫婦の子供が日本に連れ去られてきたとしても、それがハーグ条約非締結国に常居所を有している状況下でなされたならば、米国籍の親は、ハーグ条約に基づいて子の返還を求めることはできません。(平成24年2月21日追記) 

 5 子を連れ去られた親は、連れ去られた先の国に返還を援助してもらう申請をする必要はなく、自国の中央当局(日本では外務省を予定)に申請をすれば良いことになっています。
 6 援助申請をしても、すぐに連れ去られた先の国側で強制的な手続がとられるのではなく、任意に常居所地国へ返還するように促す活動が行われます。
   任意に返還しない場合には、連れ去られた先の国の機関(通常は裁判所です)にて、返還を命ずる審理が行われます。
   返還手続の審理は、その申立がなされてから(返還援助申請の時点からではありません)、原則として6週間以内に結論を出すこととされています。しかし、実際には、それよりも長期に亘って審理がなされているのが実情です。
   すなわち、返還援助申請を行い、相手方が任意に返還に応じればともかく、相手方国において裁判がおこなわれるとするならば、返還の可否についての結論が出るまでに、それ相当の期間がかかるということです。(平成24年2月22日追記)

 7 子の返還手続の流れ
  ア A国にいる親が援助申請(A国の中央当局or日本の中央当局へ)
    *A国の中央当局に申請されると、これが日本の中央当局(外務省を予定)に転送されます
  イ 日本の中央当局内での手続
    a 要件審査
    b 子の所在調査
    c 任意解決支援等の援助措置
  ウ 日本の中央当局がイの結果をA国にいる親に報告
  エ 任意解決が図れなかったような場合には、A国にいる親が、子の返還命令申立(日本の裁判所へ)  
    *ア〜ウの手続を経なければエの申立ができないということではなく、A国にいる親は、当初から、日本の裁判所に対し、子の返還命令申立を求めるというルートを取ることも可能です
  オ 裁判所における返還命令の決定発令
  カ 子の引渡手続              
                         (平成24年2月29日追記)

 8 裁判所が子の返還を拒否できる理由
  ア 返還命令申立が連れ去り・留置から1年を経過した後になされ、かつ、子が新たな環境に適応している場合
  イ 申立人が子の連れ去り・留置の時点で、現実に子の監護権を行使していなかった場合(但し、連れ去り・留置がなければ、監護権を行使していたと認められるような場合は含まれません)
  ウ 申立人が連れ去り・留置について事前あるいは事後に承諾した場合
  エ 子の返還が、子の心身に害悪を及ぼすか、または、子を耐えがたい状況に置く重大な危険がある場合
  オ 子の年齢と発達度合からして子の意見を考慮するのが適当なときに、子が返還を拒んでいる場合
  カ 子を返還することが、子の所在する国における人権と基本的自由の保護原則に反することとなる場合
 * このように、ハーグ条約自体が、子の引渡を拒絶することができる場合を列記しているのであり、日本だけが、引渡拒絶事由を設けようとしているのではありません。
   最も問題となる上記エを具体的事案において判断するに当たり、いかなる事情を考慮するか、その判断事情のところで、加盟国と日本との間で大きな考え方の隔たりがあるのです。
                         (平成24年3月8日追記)

 9 前回追記をした翌日にあたる平成24年3月9日、ハーグ条約の実施に関する法律案が国会に提出されました。今国会は、消費税増税法案をはじめとして重要法案が多数ありますので、ハーグ条約の実施に関する法律案の今国会での成否は何とも言えませんが、いずれにしても、同法案が、いずれ公布・施行されていくという流れは既定路線となったと言ってよいかと思われます。事実、政府は、ハーグ条約の締結に向けて、中央当局の制度設計等をはじめとする準備を進めています。
   この流れを象徴するように、このたび外務省は、海外及び日本国内に居住する当事者に対し、日本の制度等について電話にて説明を行う事業を3か月間に亘って行うこととし、昨日より実施されています。条約加盟、法施行後には中央当局の立場を担うことが予定されている外務省は、中央当局として各種相談電話が寄せられる状況になる前に、当該事業を通じて得た経験を、ハーグ条約の円滑な実施に役立てることを目的にしているようです。
   現在、子の連れ去りの当事者となってしまっている方々としては、ハーグ条約締結及びその実施に関する法律施行前の、またとない機会と捉えることもできるものですから、当該事業による相談を御活用されてみてはいかがでしょうか。
                        (平成24年5月2日追記)   

投稿者:よしの たいら
at 16 :26| 離婚−ハーグ条約 | コメント(0 )

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