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2006 年10 月20 日

「神の左手悪魔の右手」

見てきました…。
映画館貸し切りでした。スクリーンと1対1の勝負。マジで…。
シネコンでは初めての体験だ。
ナイトショーとはいえ、けっこう観客はロビーにいたのに…。

ホラーの極北に屹立する異形にして孤高の傑作、楳図かずおの「神の左手悪魔の右手」。
1986年から2年間にわたって連載されたそのマンガは、圧倒的な画力によるスプラッター描写に加え、一つ一つが短編になりそうなアイデアが多数絡み合って独特な身体感覚と思想を構成し、他のいかなる創作物も未だ到達し得ない世界を生み出している。
神の左手悪魔の右手


で、この映画は、「神の左手悪魔の右手」の3番目のエピソード「黒い絵本」を比較的ストーリーに忠実に映画化したものなのだが…なんだかなあ〜。

実況で細かい突っ込みを入れたいくらいの感じなのだが、演出で気になったところから。

まず、台詞回しが、なんというか芝居臭い。演劇っぽいのではなく、芝居臭いのだ。この辺、監督の演出だと思うのだが、意図がよく分からん。金子修介監督作品は「1999年の夏休み」しか見てないが、これも確かこんな台詞回だったかも(脚本が岸田理生なせいかも知らんが…)。

無意味な顔のアップが多い。まあ、何らかの意味はあるんだろうけど、よく分からん。テレビじゃないんだから、そんなに寄らなくても表情は分かるだろうに…。表情を強調した効果的なカットというわけでもなく、普通にアップにしたりするのはなぜ?

あと、初めの人形のエピソードも、つかみとしては引っ張りすぎと思う。かなり起伏なく引っ張るので辛かった。しょっぱなから「もうだめだー」と思わせる演出…。

けっこう活躍している監督なのだが…。
うーむ「デスノート」とかどうなってるのだろう。「神の左手悪魔の右手」自体「デスノート」シリーズの合間に撮ったような感じも受ける。ぬうう、手を抜いたのか?怒らないから正直に言いなさい!

あと、描写は抑え目です。スプラッター度や残虐性ではマンガが上。でも、このマンガ、書店で誰でも買えちゃいます。映画はR−15指定なのに…。

次に内容。この辺は原作のファンなのでちょっと公平性には欠けるトコだが…。

まず、想の能力について。
かなりスケールダウンというか矮小化されている。ヌーメラウーメラじゃないのか?
でも結局、最後は正義の味方として唐突に現れ、「神の左手悪魔の右手」で悪人を滅ぼし善人を生き返らせてしまうという、いかにもご都合主義的展開になってしまっている。
原作では、現実が想の悪夢にとりこまれているような感じで(だから想が「この世のもと」である「ヌーメラウーメラ」であり「神の左手悪魔の右手」が使える)考えようによっては想が「いちばん恐ろしいやつ」だったりするのとは大きな違いだ。

田口トモロヲのキャスティングは良いと思うが、イマイチ異常さが空回り気味。
原作では異常な絵本を淡々と読んでいる。絵本のストーリーの異常さに気づかないというか、うすうす変だと思っているが、自分ではどこが変なのか分かっていない感じが怖い。

「黒い絵本」第1話の最後から第2話の初めから抜粋
パパ:夜の道にお人形が落ちていました。
   お人形は毎晩毎晩夜の道にやってきては…
   そこで待っていたのです。
   誰か私を拾ってくれないかなあ?
   でも、誰も拾ってくれませんでした。
   みんな知らん顔をして、通り過ぎていきました。
   踏んでいく人もいました。
   けとばす人もいました。
   でもある晩…
   心の優しい女の子が通りかかって、お人形を拾ってくれました。
   わたしはとてもうれしくなり、その女の子が大好きになりました。
   そこでわたしは女の子を…
   殺しました…
もも:殺したの?(ビックリ!)
パパ:そう。(きょとんとして)
   だってお人形を拾ったんだもん。

ちなみに女の子を殺した「わたし」が人形なのか語り手なのか判然としないところが不気味だ。
また、原作の、被害者とコミュニケーションがないところも、あくまで自分の絵本の登場人物としか見てない感じで怖い。しかるに映画では「どんな殺し方がいい?」みたいな問いかけをしてみたりで、単なる変質者。
あと、原作の滝のように涙を流すシーンとかも、実写化は無理でも何かそれに匹敵するシーンを作って欲しかった。


あー、まだ書き足りない。続きは金沢美大の大学祭で高橋先生とでもやるか…。楳図ファンは美大祭に集まれー!

で、結論。
やはり、「神の左手、悪魔の右手」はホラーの極北に屹立する異形にして孤高の傑作だ。この山には誰も登れまい。

でもクローネンバーグが「錆びたハサミ」を映画化したら凄いかも。

投稿者:親方
at 02 :55| 映画 | コメント(0 ) | トラックバック(0 )

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