2007 年9 月3 日

「春のめざめ」&「過去のない男」

「春のめざめ」
たった27分で、しかも文学もの…と侮ってはいけない!

油絵がそのままアニメーションという手法への興味から見に行ったのだが、見てビックリ。文学ネタと言うことで、おとなしめの映像かと思いきや、少年の心象描写がイメージの奔流で表現されていて見応え充分な作品だった。

ダイナミックな画面の展開や牧夫一家のカリカチュア風な人物描写などは、チェコアニメ(ロシアアニメはノルシュテインとかカチャーノフくらいしか見てないので…)に近い感じだ。やっぱりその辺と根っこは一緒なのかなと妙に納得。

もちろんストーリーの方も切なくってよいです。けっこうグッときます。
短い作品の単独上映だが、東欧アニメのファンなら見て損はない作品。

「過去のない男」
やー、こっちもイイ映画でした。なんか、じんわりしみる感じ。

ストーリーは、結局みんないい人みたいな人情話なんだけど、演出がけっこう淡々としたタイリッシュな感じで、あんまり熱くならないとこがいい。
別れのシーンは抱擁とか握手をして離すと同時に左右へ歩み去ってゆくような感じ、男が女を誘うシーンも並んでセリフだけ言っているような感じで、実にあっさりしている。

こういう演出で、単なる人情話から、かえってより深い物語になってしまうのは、不思議だよなあ〜。まあ、この辺が名匠の名匠たるゆえんなんだろうが。

投稿者:親方
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2007 年8 月20 日

「それでも生きる子供たちへ」

今日は、シネモンドで「それでも生きる子供たちへ」を見た。
そんなに良くできた映画というわけでもないのだけど、やはり私も人の子、動物と子供には弱くて、ついウルウルとなってしまった。

子供は好きじゃないし、イノセンスなものとも思ってないが、戦争、貧困、エイズやドラッグなどハードな環境の中で健気に、あるいはタフに生き抜いている姿は、感動と同時に「なぜ子供がこんな苦労を背負い込まなくてはならないのか」という怒りを呼び起こさせた。

で、映画を見終わると、もう憤懣やるかたない状態。飲まずにやってられるかということで、明日は仕事なのに飲んじゃいました…。

投稿者:親方
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2007 年7 月2 日

「ピンチクリフグランプリ」

いやはや、何ともマニアックな作品だ。
大体が人形アニメでカーレースという発想が正気でないと思うぞ。

ストーリーはきわめてシンプルでキャラクターも類型的。
最初は人形の生々しい動きで驚いたが、キャラクターの魅力が薄いのと、ベタベタで濃いめの演出はイマイチで、前半はチョット寝てしまった…。

しかし、メカに対する偏愛と人形の細かい動きがかなりキテいる。
メカについては、発明家が主人公と言うことで、レトロ調のレーシングカーを筆頭にプロペラ駆動の三輪車や黄金のロールスロイス等こだわりのメカが色々出てくるが、それよりも作業場の感じなんかが、ホント機械好きな感じがする。

また、アニメーションについては、中盤のバンド演奏のシーンが凄い。たぶんこれは指の動きとかまで再現しているのだろうなというくらいの細かさ。

このあたりから「おおっ」と思わせておいて、いよいよレースシーン。
レース解説者の声は入るものの、結構ハードな描写で、かなり見せる。前半の眠気も吹っ飛ぶテンポの良さ。うーん、寝て済まなんだ…。

それにしてもこのレースシーン、どうやって撮ったのかよくわからん…。
もしかして本物のクルマをミニチュアに見せかけて撮ったじゃないかと思わせるくらい、何がなんだか分からないリアルさだ。1975年の作品らしいけど、ホント、CGのない時代によくここまでやるよなあ。

投稿者:親方
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2007 年6 月22 日

「黒い眼のオペラ」

いやあ、アジアだなあ…。

舞台はマレーシア。貧しいバングラ(?)の外国人労働者が行き倒れの中国人を宿に連れ帰るところから始まる。
外国人労働者が集まる宿とその生活。主人公達が訪れる、おそらくは建築途中で放棄されたビルの廃墟には、水がたまって池ができている。ラジカセから街頭からテレビから流れてくるオペラ、京劇、インドのミュージカル映画、中国やマレーシアの歌謡曲…。

動きの少ない長回しのカット(寝てるとこや向こうから歩いてくるとこなんかをじっと撮ってたりする)で、ほとんど1シーン1カットで構成されているまったりした映画なんだけど、なんか空気が異常に濃密。また、説明的なシーンもなく、なんか曖昧なまま、淡々と話は流れていくが、どこか不穏な緊張感が漂っている。

蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)の映画は見たことないが…と書こうと思って、今、念のため調べてみたら「Hole」が蔡明亮作品。うーん言われてみると同じテイストだ。さらにこの映画ではウェットさと濃密さが増してきていて、ほかにはない感じだと思う。

ラストがなんかイイ。
感動のラストというのではなく、非常に象徴的なシーンで終わるのだが、藤原新也の「メメント・モリ」を思い出した。
説明するのが難しい映画だが(私の文章力では…)いい映画です。

それにしても、この映画をアベックで見に来てる人たちがいたなあ。筋金入りの映画ファンカップルなんだろうか、それとも内容を見誤って来ちゃったんだろうか…。まあ、イイ映画だけど、カップルで見て楽しむ映画ではないよなあ…。

投稿者:親方
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2007 年6 月21 日

「大日本人」

いや、こういう言い方もナンだけど、前評判ほどひどくないッス。いや、むしろ面白い。というか、結構好きです。しかし、怪獣ものとは思わなかったなあ。
あちこちで叩かれたのは、やはり秘密主義の売り方が問題だったんだと思う。せめて形式的なジャンルくらい明かしておかないと観客も心の準備ができないと思うが…。

まあ、松本人志には「頭頭(とうず)」なんてビデオもあり、期待よりも不安の方が大きかったので、その分、大いに楽しめた。
特に、主人公「大佐藤」のダメというか、落ち目というか、本人は真面目に誇りを持って仕事をしてるのに、すっかり落ち目扱いな感じがイイ。
CGもリアルさと馬鹿馬鹿しさのバランスがなかなかいいし、CG大佐藤の表情も捨てがたいが、やはり松本人志の強烈な妄想力によって構築された、あり得ない&よく分からないのに妙にリアルな「大日本人」という「職業」と大佐藤のキャラクターが見所の映画であろう。

松本人志も最初は違和感があるが、別居中の子供と会う前日にはしゃいでいる姿なんかは、いい味だしてる。しかし、一方でぎこちない感じの標準語をしゃべっているのは、いかがなものか。狙った演出と思うが、過度に胡散臭くなったのと、細かいニュアンスが伝わりにくかったような気がする。いっそ東京芸人か俳優にやらせても面白かったかも…。

あとラストもチョット唐突。もっとしっかりと伏線を張るべき(同業者うんぬんがもしかして伏線?)。また、これも狙った演出だと思うが、延々といじめのようなシーンが続くのはチョット辛い。コンセプトは分かるのだが、もうちょっとソフティケートされた形にならなかったのか…。

でも、祖父との思い出から自衛隊が大佐藤を包囲し突入し始めるシーンはなかなかよかった。中村雅俊の歌が入り、ベタな感じでニヤリとしたところで、緊迫した(チョット大げさな感じだが)シーンに移行するのが他にはない味で、さすがと思わせる(まあ、とまどう人の方が多いかもしれんが…)。しかし、ここなんかも、自衛隊が突入するような伏線を張っといた方がよかったような…(マネージャーが妙に羽振りが良かったのが伏線?)。

まあ「ヒーローの日常」というのが主題らしいが、サブテーマは「落ち目」みたいな気もする。もしかすると松本人志は「落ち目」って結構好きなのかも(Mらしいし〜)。

投稿者:親方
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2007 年4 月16 日

「オーロラ」

コテコテの砂糖菓子のような映画かと思いきや、意外とマトモ(?)な映画。
ダンスもミュージカルのようにいきなり挿入されるのではなく、ストーリーの一部として描かれていて違和感なく楽しめる。かえって、ダンスが素晴らしいため、もうチョット見せて欲しいと思うくらい。

ダンスシーンは、まず産まれながらのバレエバカの姫の踊り。さらに財政難の王国を救うため、国王が姫を金持ちの王子に嫁がせようと苦渋の決断をし、見合いのための舞踏会を開くのだが、これに招待される各国の王子が連れてくるエキゾチックな舞踊団(3組)がメイン。

この舞踏団の踊りがなかなかイカしてる。特に1回目の舞踏会のアラブ風の踊りがカッコイイ!贅肉の全くない、鍛え上げられた肉体の美には圧倒される(ホネホネスジスジでエロさには欠けるが…)。

しかし、2回目の舞踏会で「ジパンゴ王国」の王子が連れてくるのがなんと暗黒舞踏…って、見合いで見せるもんじゃないだろが!

とまあ、突っ込みたいところもあるけど面白い映画で、「エトワール」の監督にしてはマトモじゃんと(少々ガッカリしながら)見てたのだが、ラスト近くになって予告編に出てきた雲の中で踊るシーンや(雲までは空を飛んでいく…)リンチの「ワイルド・アット・ハート」の「善い魔女」みたいな鳥の精が出てくる一方で、国王をそそのかす悪い側近にさりげに姫が火をつけたりとなかなかヤッてくれます。

しかし、この監督、リンチに影響を受けてるのか天然なのか…次回作が待ち遠しい!

投稿者:親方
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2007 年3 月19 日

「NARA:奈良良智との旅の記憶」

美大祭レポート2006(美大祭3日目(第5報))でもふれたけど、やっぱり奈良良智、素敵な人だよなあ。
ビックネームなのに偉ぶったとこがないし、こざかしい「戦略」とかもなくてイイ。有名になって一番とまどってるのが本人といった感じ。結構シャイで引っ込み思案な感じだけど、思い切って人の中に飛び込んで行っているようにみえる。

映画の方もよけいな解説はせず(ナレーションは宮崎あおいを起用しているが出番は少ない)、韓国、タイ、弘前、東京、その他と奈良良智を追いかけてゆく。韓国で女の子ばっかりの「ファンの集い」に参加したり、あちこちで小屋を建てたり、工房で絵を仕上げたり…。最終的には弘前の「AtoZ」という大がかりな展覧会に至るわけだが、これもことさら盛り上げるわけでもなく、grafやボランティア達との共同作業を淡々と描いている。

でも、なんかしみじみイイ映画です。やはり人柄なのかなあ。奈良良智の孤独へのこだわりとスタッフやボランティアとの共同作業、絵の変化。堅いものが徐々にほぐれていくような、閉じこもっていた人が一歩外へ踏み出すような感じ…。決して押しつけがましいとこはないけど、グッと来ます。

打ち上げで車座になってみんなで飲んでいるところがいい。長らく車座で飲んでないよなあ…。

投稿者:親方
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「エンロン」

いやはや、凄いッス。
映画が凄いと言うよりエンロンが凄い。もう、開いた口がふさがらないというか…。

なかでも、「時価会計」のくだりが凄くて、計画中のプロジェクトが将来上げる予定の利益まで会計に繰り入れてしまうというのがビックリ。映画のHPによると、普通は株の終値などマーケットの評価で時価が決まるものらしいが、エンロンの場合、評価ができる第三者や指標がなかったため、自己申告で時価を出していたとのこと。いわば「こうなったらいいな〜」みたいな将来予測で時価を決めてたということで、粉飾というより空想の世界だ。

さらに損失を子会社に付け替えたり、株のアナリストに提灯記事を書かせたり、銀行や会計事務者を抱き込んだりした上、電力価格をつり上げるためカリフォルニアで電力危機を起こしたりとやりたい放題。もうメチャクチャ。

で、その目的が株価を上げるため。
ほとんど実績が上がってないにもかかわらず、空想である未来の利益と損失隠しで、数字上の会社の利益を膨大なものにして株価をつり上げてゆく。「買うならエンロン株、損はさせません」という尻から、やばくなってくると幹部達はとっとと持ち株を売り抜けて、億単位(しかもドルで!)の利益を上げる。もう、市場の信頼性とかあったもんじゃない。

まあ、規模ややり口のあくどさは及ばないけど、ライブドアもこんなノリだったのかなと思う。「金儲けは悪いことですか?」なんて言ってた人もいたけれど、ついつい悪いことして金儲けしちゃう方向へいっちゃうんだよなあ…。

ちなみにこの映画、最低限の説明は映画の中でなされるので、経済オンチでも理解可能だが、それでも、Wikipedia映画のHPで予備知識を得ておくのが良いと思う。

投稿者:親方
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2007 年3 月17 日

「ランド・オブ・ザ・デッド」(DVD)

1,800円の廉価版が出ていたので、つい買っちゃいました。
廉価版ながらオマケも充実していて、メイキングやインタビュー、音声解説も付いてます。それにしても、ロメロってムツゴロウに似てなくなくない?

この映画は、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「ゾンビ」「死霊のえじき」でおなじみ、ゾンビ映画の元祖&巨匠といわれるジョージ・A・ロメロの20年ぶりの新作ということで、劇場公開時(おととしくらい?)に見にいったんだけど、娘アルジェントやデニス・ホッパーなんかが出ててビックリ。DVDの特典映像によると、デニスのおっさんは自らすすんで出演したらしい。そういや「悪魔のいけにえ2」でもチェンソー3つ持って殺人鬼一家と五分に渡り合う、イカレたテキサスレンジャー役で出てたよなあ。

映画館で見たときは、正直物足りないなと思ったんだけど、改めて見ると意外と面白い。
ディレクターズ・カットということで、劇場版に比べ流血度が強化されており(劇場版はR指定回避のためひかえめ)、シーンの追加のほか、既存のシーンでもCGで血の色を鮮明にしたり、飛び散る血を増量しているとのこと。アクション映画なんかでは、弾丸や火花はCGで入れるというのは知っていたが、昨今は飛び散る血しぶきなんかもCGを使っていれるのか。うーん、CG恐るべし。
これ以外に編集の方もいじってあるのだと思うが、映画館で見たときと比べ全体的にメリハリが効いてる感じ。映画館で失望した人もレンタルで見直す価値はあると思う。

まあ、内容の方は、いつもどおり生き残った人間達が内紛を起こして自滅してゆくというもの。ワンパターンというか、一貫しているというか、この辺は40年前の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」から変わらない。
しかし、時代によって内紛の対立軸が色々変わるというのはあるわけで、今回は貧者と特権階級との対立。また、ゾンビ駆逐用の装甲車を奪取し、特権階級の住むビルを攻撃しようとするあたりは「テロの時代」を意識したものであろう。

さらに今回は、ゾンビが知性や感情に目覚めるというのが最大の特徴。怒れるゾンビのリーダーが無数の仲間を引き連れ、要塞都市になだれこみ、貧民も特権階級もかまわず食いちぎる。
この辺は、これまでのゾンビに慣れた人間には違和感があるのだが、前作の「死霊のえじき」ではゾンビを教育しようとするマッドサイエンティストが出てくるので、シリーズ間では一応話がつながっている。

それにしても、煌めくビルを目指し、撃たれてもなお黙々と進み続けるゾンビ達が妙に泣かせる。特に前線基地を突破し、生者と死者を隔てる最後の障壁である川を渡り終えて、一人また一人と水中から現れてくるところがイイ!とにかくゾンビがかっこいい映画だ。

まあ、なんだかんだ言って、お目当ては娘アルジェントだったりするのだが…。

投稿者:親方
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2007 年3 月13 日

「ルナシー」

いやぁ〜、面白い!
予告編で「哲学的ホラー」だの、タンが這いずり回ったりと「イレイザーヘッド」風の映画かと思いきや、なかなか愉快な映画。2時間3分とやや長めだが楽しめた。

精神病院で死んだ母親の葬儀の帰路、悪夢にうなされ主人公が宿の部屋をメチャクチャにしてしまうところから話は始まる。この青年、母親が精神病院に入れられたトラウマのせいか、ストレスが高まると、太ったスキンヘッドの精神病院職員二人組が拘束衣を手に捕まえにくるという悪夢を見て大暴れしてしまうのだ。
翌朝、宿の主人はもちろん、他の客にまで白い目で見られる主人公。そこへ「侯爵」(サド侯爵がモデルね)と呼ばれる男が現れ、宿の損害を弁償した上、一緒に来ないかと主人公を誘うのだが…。

このイカレた、やたら大笑いする侯爵がイイ。
自らの自由のためには神も自然も否定したり、これまた母親が「早すぎた埋葬」(生きているうちに、間違って埋葬されちゃうこと。このあたりエドガー・アラン・ポーのモチーフね)をされたというトラウマから、仮死状態になる発作を起こしたりするんだけど、これもまた楽しんでいるようなところが、なかなか痛快。

さらに「予防療法」と称し、コントロール可能な条件下で悪夢と同じ内容を実際に体験させ治療するという、怪しげな精神病院の院長に紹介されて、主人公は精神病院に体験入院することに。ここでさらに怪しげな看護婦があらわれ「侯爵や院長は反乱を起こした患者で、本当の院長や職員は地下に監禁されている」などと言い始め、「ホントに狂っているのは誰」的な展開に…(まあ、こういう場合、全員狂ってることが多いのだが)。

一方、映画の冒頭から、ストーリーに関係なく、這いずり回る生肉のコマ撮りアニメが所々挿入されている。これがまた、悪趣味だが、どこか陽気でキモカワイイ。タン(舌)や目玉や脳まで群れをなしてはい回ったり、石垣の隙間からあふれ出したり、舞台の上でマリオネットになったりと、とにかくシュール。たまりません。

まあ、このようにゴキゲンな映画なのだが、気になったのは、神と涜神的行為、自然と人間、自由と拘束あるいは肉体と精神というふうに「二元論」が多用されていること。ちょっと「欧米か?」と聞きたくなった。まあ、さすがに肉体と精神の二元論については否定的な感じだけど。

あんまり関係ないけど、「狂人の解放療法」つながりで夢野久作の「ドグラ・マグラ」を思い出した。これにも「脳髄はものを考えるところにあらず」とか独特の身体論が出てきたりして、比較すると面白いかも。

そういや、長らく読んでないよなあ「ドグラ・マグラ」。映画の方も、小説のような異常なパワーはないが、手際よくストーリーをまとめていたり(小説は「胎児の夢」だの「脳髄はものを考えるところにあらず」だの「狂人の解放療法」だの「九想図」だの枝葉が強烈すぎてストーリまで目がいかなかったりする)、今は亡き桂枝雀の怪演とか、なかなかよかったと思う。ビデオショップで見かけたら是非借りてください!

それにしても、あの肉…。
食べ物で遊んじゃダメだと思うぞ…。

投稿者:親方
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2007 年3 月8 日

「酒井家のしあわせ」

まあ、普通の感動する映画ですな。

見所は、やっぱキャスティングでしょう。
友近とユースケ・サンタマリアの夫婦というのが面白い。
友近が意外に(?)うまいのと、ユースケ・サンタマリアが独特のキャラで、ヘビーになりがちなストーリーを救いのあるものにしている。

特に友近の口うるさい母親がリアル。アメリカのテレビドラマの吹き替えのモノマネ(?)とかやってるから器用な人なんだろうけど。お笑いでは、いまいちキャラが弱いような気がするが、役者には向いているかも。

映画自体は、非常にていねいな作り。コミカルなシーンも浮いてないし、子役もうまい。第一回監督作品ということだが、変に気取ったところや、奇をてらったところもなく好感が持てる。

あと、コメディリリーフの谷村美月がイイ感じ。この子いいよなあ。「カナリア」では泣かされました。将来が楽しみ…ムフフ。

こうやってみると、けっこうイイ映画かも…普通に。

投稿者:親方
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「キャッチボール屋」

都市の偶話というか、フェアリーテイル。
寺島進、松重豊とコワイ顔の人も出てくるけど、ふわっとした、ハートウォームな映画だ。
なんというか、悪い人が出てこないんだよなあ。ここがこの映画の良いとこでもあり、物足りないとこ。
野球つながりで「青春★金属バット」を思い出させるが、「金属バット」の方がバイオレンスでざっくりしている分、切実な感じでグッとくるもんがあったもんな(巨乳だけど…)。

でもまあ、この映画はこれでいいんだと思う。
不思議なキャラ(キタキマユのOLや水橋研二の借金取りなど)や、よくまとまったストーリー、キャッチボールという象徴的なモチーフなど良くできている。なんかイイ感じデス。

それにしても、映画に限らず高校野球のトラウマというのは、モチーフとして多いが、かつてのベトナム帰還兵ものみたいなものか?全国で高校野球以来、時が止まってしまっている人は何人くらいいるのだろう…。

投稿者:親方
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2007 年2 月19 日

「BLOCK PARTY」

これまた「クリムト」とはうってかわって、生命感ビンビンな映画。ブルックリンでおこなわれたラップ、HIP-HOP、ソウルなんかの野外ライブのドキュメンタリーなんだけど、なんと監督はトリッキーなミュージックビデオで有名な映像の魔術師ミシェル・ゴンドリー!

この映画では、ミシェル・ゴンドリーはドキュメンタリーに徹しているけど、やはり構成がうまい。準備から本番まで時系列に並べて徐々に盛り上げてゆくというのではなく、開始早々からライブのシーンを入れて盛り上げ、これに準備・リハーサル・インタビューを織りまぜながら、行ったり来たりしつつ映画は進んでゆく。さらに、このつなぎが面目躍起というか、特にリハーサルとライブの間なんかは音楽を媒介にしてスルリと場面を転換してゆくとこあたりは目立たないが、ミシェル・ゴンドリーぽい仕事だ。

もちろん、音楽の方も充実していて(アメリカンジョークも)、自然と体が上下してしまう。終盤に歌われる「Killing Me Softly」も前評判どおり。また、主催者のデイヴ・シャペルがチケットを配ったり、地元の大学のブラスバンドを出演させる所など細かいエピソードもイイ。

それにしてもラップの歌詞がポリティカルかつ攻撃的なのには改めてビックリ。というか、そういう歌詞がリアリティと切実さを持って歌われ、受け止められているところが凄い。日本の若者がこういう歌詞を歌っても、どうもリアリティがないというかファッションぽくなってしまうのだが…。まあ、それだけ日本は幸せな国ということなんだろうな…。

投稿者:親方
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「クリムト」

エロエロな伝記映画かと思いきや、意外とクールな作り。まあ、裸の女性はいっぱい出てくるけど…。

内容は、病床にあるクリムトが、弟子のエゴン・シーレに見守られつつ死の間際に自分の過去を幻覚で見るといったもの。梅毒病みの脳が死の間際に見る夢だから、謎の女やクリムトにしか見えない外交官など思わせぶりな人物が登場。この辺、クリムトの伝記を読むとかして一通り勉強しておけばナルホドという感じなのだろうが、残念ながら勉強不足で…。迷宮ぽい感じだけど、緻密に計算されてるっぽい感じもして、クリムトの絵じゃないけど、なんかの寓意になってるんだろうな〜、よく分からんけど。

でも、幻想的な雰囲気もいいし、美術も凝っててなかなか見せる映画です。カフェの様子なんかもいいよなあ。ああいうとこで一度飲みたい…。

それにしても、冒頭から登場する、にやけたエゴン・シーレ…イメージ狂うよなあ…。

投稿者:親方
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2007 年2 月6 日

「ホステル」

うーむ、どうなんだろう。題材の割に普通のホラーのような気が…。
もっとイヤ〜な感じかと思って、それなりに覚悟を決めて見に行ったんだが、ちょっと拍子抜け。でも、全米初登場第1位というのも分かる気がする。
まあ、よくできてる分、安心してみられるというか、怖がらせても追いつめないよう配慮されている。その辺タランティーノがらみのせいか、マニアックな感じでも受けるツボみたいのは押さえてあったりしてる訳だが、それが俺的には興ざめ。
これが、塚本晋也の「HAZE」とかロブ・ゾンビの「マーダー・ライド・ショー」とかだと、観客をとことん追いつめてやろうとか、観客?知ったことかい!くらいの感じで、万民に愛されようとかいう配慮はかけらほどもなかったりするのだが…。実のところこの映画、「マーダー・ライド・ショー」から悪ふざけ&ロックを除いたような感じかと思ってたんだがなあ(って、そんなもん見に行くか?)。それにしても、この題材、掘り下げればかなり凄いものになりそうなんだけど…なんか惜しい。

そういや、「マーダー・ライド・ショー」のパート2はやらないんだろうか?おーい、上野く〜ん!やらないの?

投稿者:親方
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「明日へのチケット」

題名ほど明るい映画じゃないです。
列車内を舞台にしたオムニバス風の映画で、ケン・ローチ、アッバス・キアロスタミ、エルマンノ・オルミの3人の監督がそれぞれ1エピソードずつ担当している。で、監督の顔ぶれからしてそうだけど、けっこうビターな感じの仕上がり。まあ、だからこそ見に行ったんだけどね。
特に3番目のローチのエピソードは、見ているこっちまで良心がヒリヒリするような感じ。バカっぽい3人の若者の話なんだけど、ひょんなことから人間性を問われる決断を迫られ(というのはおおげさか?)、けっこう見苦しい状態になってしまう。うーん、なんかリアルで身につまされるよなあ。ラストは結局ハッピーエンドなのだが、これがまたかなり感動。

そんな訳で、見終わった後、なるほど「明日へのチケット」だよなあ、と思うわけだが、原題の「TICKETS」の方がしっくりくるよなあ。「明日への…」って、ちょっと軽い感じだしー。

実のとこ、46日目にしてant's life studioの女王アリが死んでへこんでます。調子出ねぇ…。

投稿者:親方
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2007 年1 月30 日

「悪魔とダニエル・ジョンストン」

ダニエル・ジョンストンって、はっきり言って聞いたことなかった。音楽を、と言うのではなく、その名前すら聞いたことがなかったのだ。まったく迂闊なことである。

この映画は音楽ドキュメンタリーというのではなく、この天才の半生を丹念に追っていったものだ。普通、こういうドキュメンタリーは関係者のインタビューと作品で追いかけていくのが常套手段だが、この人の場合は、その他に自主制作映画や絵画、そして膨大な量のテープに吹き込まれた日記やオーディオレターが残っており、当時の彼自身の声によって人生が語られている。
で、これがへこむ。今はもうダメになっちゃった感のある人の、正気の頃の(と言ってもかなり変わっているが)声が流れるというのは悲しい。

また、躁鬱病と宗教性の妄想(両親は厳格なキリスト教原理主義者、って「キャリー」か?)、さらに薬のせいでデブデブになって幼児に戻ってしまったかのような状態になっても、それでもなお心に残る音楽を奏で続ける姿は、その音楽とあいあまってホント切ない。よく世の人は「狂気と創造性」について語るけど(それも多分にロマンチックに…)この人の場合は病気。多分そのために創造性はかなり妨害されてしまっているのではないかと思う。それでも、妄想で硬直したり、薬で霧のかかったような精神を突き破って、魂が噴出するような演奏をする姿には感動する。もしこの人がギリギリの狂気というか気まぐれ屋の変人くらいにとどまっていたら、私でもその音楽を聴いたことあるくらい(ちなみにボブ・デュランくらい?)大物になっていただろうに…。

「エクソシスト2」じゃないけど、悪魔はまず輝きを持った人から引っ張っていってしまうのだろうか…。ああ、へこむ…。

投稿者:親方
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2007 年1 月29 日

「エコール」

うーん、なんだかアブナイ映画だよなあ…。
公式ホームページを見ると監督は原作のネガティブな要素は排除したなんて言ってるが、かなりヤバイ感じがするのは私がスケベ親父だからか?
外界から遮断された「エコール」は規則や秘密がいっぱいだし、陰気くさい召使いやの老婆や幸薄そうな女教師とか非常に訳あり気…。年1回、校長(女性)が来て、年長さんの中からダンス、容姿の優れた子を一人選んで連れて行くのだけど、これもなんかモノを選ぶような感じで人身売買ぽい。こんなんについてって大丈夫かよと突っ込みをいれたくなる。原題は「イノセンス」だが、なんだか映画はちっともイノセンスじゃない。田嶋陽子とかフェミニストが見たら激怒しそう。

でもこの映画嫌いじゃない…というかむしろ好きなのは、やはり私がスケベ親父だからか。とはいってもガキの裸に興奮しているわけではないぞ。貧乳・ボーイッシュ好きだが、男と子供は興味がないので念のため。ちなみに高校生は…大人です。
私が好きなのは、排除されているはずの不吉な、あるいは不穏な感じ。公式ホームページでは「サスペリア」や「ピクニックatハンギングロック」などとの関連が語られていたけど、私はデイヴィッド・リンチの影響を感じた。特に意図的に彩度を上げたという映像は「ブルーベルベット」に出てくる郊外の住宅地の、一見きれいだが、その奥に何か不穏なものを感じさせる映像に通じるものがある(たぶん、監督にそんな意図はないと思うが…)。また、冒頭以下何カ所か挿入される泡立つ水の映像もなんかリンチっぽい。この一見穏やかな自然に囲まれたイノセンスな少女達の学校の奥底に何か底知れない不穏さが、なんだか非常にそそるものがある。そういえばみんなで地下通路の換気穴(?)をのぞき込んでいるとことかも「ブルーベルベット」の耳のシークエンスを思わせる(考え過ぎか?)。

ついでに言えば「ピクニックatハンギングロック」はオーストラリアの神がかり的女子高生(舞台は1900年だが)の映画で神秘主義思春期少女映画の傑作だけど、主体的に神隠しになってしまう分、受動的な少女たちを描いたこの映画とは方向性が違うような気がするなあ。
また「サスペリア」の方は、バレエのシーンでつい連想してしまったが、なんと原作が同じとのこと(「サスペリア」の方はインスピレーションを与えた程度か?)。そういえば抑圧されてる感じや学校の秘密の多さとか共通点はあるよなあ。

それにしてもあのラスト、少女達の先が思いやられる…。お父さんは心配だぞ(独身だけど…)。

投稿者:親方
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2007 年1 月23 日

「パビリオン山椒魚」

2007年の第1本目はオダギリジョー、香椎由宇主演の「パビリオン山椒魚」。
でも、はっきり言ってコメントしづらい映画だよなあ。客も意外と少なかったし。

まあ、面白くないこともない。次から次へと変なシーンが出てきて、観客を飽きさせないし、センスの良さも感じる。だが、そういうものがどうも有機的につながらず、小技をただ連発しているだけなような気がする。
特にオダギリジョーが完全にイカレちゃったあたりからしっくりこなくなってくる(笑えるけど)。映画が散漫になって展開が見えなくなるけど、もうどうでもよくなるような感じで、求心力を失っていったような気がする。ある程度、勢いを持って物語が広がっていくのなら、スゲエとなるんだろうが…。

似たような(似てるかな?)とぼけた映画に「亀は意外と速く泳ぐ」というのがあるが、こちらの方が結末に向かって話が集約されていく分、まとまった印象がある。やっぱり着地点を用意した方が、見た目すっきりするよなあ。これを外して作るとなると、よっぽどじゃないと、それこそ力量以上の幸運や変な勢いがないとうまくいかないんじゃないだろうか…。

それにしても香椎由宇は美人だよな。「リンダ・リンダ・リンダ」にも出てたが、いっそう端正さに磨きがかかった感じだ(「リンダ・リンダ・リンダ」ではべ・ドゥナしか見てなかったが…)。実のところ彼女がオオサンショウウオを抱いている姿を見るだけで元が取れたような…。

投稿者:親方
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2006 年12 月18 日

「王と鳥」

おフランスのアニメーションです。
どうやらアニメの古典的フィルムのようです。公式HPを見ると1947年に制作を開始したものの、制作費ばかりふくらみ一向に完成しないことにプロデューサーが業を煮やし、監督の反対を押し切って強引に完成させた「やぶにらみ(放送禁止用語!)の暴君」を、監督が権利を買い取って27年後に「完全版」として完成させた映画とのこと。「やぶにらみの暴君」はアニメに関心の低い私でも聞いたことのある古典。だが、こんな裏話があるとは知らなんだ…。

まあ、そういう古い作品なのだが、古さを感じさせないところが凄い。おとぎ話風な設定とハイテクとレトロが混ざり合った感じ(巨大ロボットなんかハニワっぽいし〜)が普遍性を与えていると言うところが大きいが、たとえば砂漠の中にそびえる高層宮殿とかは二瓶勉の「バイオメガ」や「アバラ」に出てくる重層的な都市を連想させたりして(かなり強引か?)、いまなお古びないようなセンスの良さもそこここに見られる。この高層宮殿の階段を一気に駆け下りるシーンとか、技術的なところはどうか知らないが、ていねいな作りで新鮮な感じを受ける(逆にライオンとかはちょっと雑な感じ…)。

あと、王様のキャラクターデザインが濃くて好きだ。ひげそり跡も青々としてなかなかダンディだと思うが…。鳥の方は性格が濃すぎ。結構うっとおしい。

なんと言ってもこの映画、音楽がなかなかよい。ちょっとメランコリックでしっとりしていて、こういうのは日本のアニメにはないよなあ。特に最初の方に流れるシャンソン!「王様とロバと私、明日にはみんな死んでしまう。ロバは飢えで、王様は退屈で、私は恋で…。」グッとくるよなあ。実にフランスっぽい。
最後のオチも、ちょっと唐突な感じはするけど、自由に対する強烈なメッセージが込められていてフランスぽいよな〜。

アニメの古典ということで、アニメファンらしき人たちが多かった気がするが、エンドクレジットが始まるとともに、みんな出てっちゃったなあ。結構イイ映画だったと思うんだが…。

投稿者:親方
at 04 :43 | 映画 | コメント(2 ) | トラックバック(0 )

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