2006 年8 月12 日

小説「墓地を見おろす家」とマンションの恐怖

新築でロケーションも絶好、さらに格安。だが、窓の外には広大な墓地。そんなマンションに越してきた夫婦と幼い娘。「墓地なんて公園みたいなもの」と割り切って引っ越したものの、入居してすぐ飼っていた小鳥が死に、さらに娘が「死んだ小鳥が夜になるとやってくる」と言い出す…。テレビに映る不気味な影、地下室で停止するエレベーター、打ち続く怪異に住民は次々と退去し、やがて主人公の家族だけが残される。そして、それを待っていたかのように…。

耐震偽装マンションや某社の故障続発エレベーターで、ふとこの小説を思い出し、読み返してみたのだが、やっぱ怖い…。特に前半の真綿で首を絞めるようなジワジワ追い詰められていく感じがたまらない。後半は部分的に空振りな感じのところもあるが、生理的でウェットな描写がなかなかエグイ。1988年の作品だが、ジャパニーズホラーの先駆けみたいな作品だ。

この小説では恐怖を煽る小道具としてエレベーターが効果的に使われている。
このマンションには地下に物置があるのだが、これが何故か階段がなく(このあたりは霊が何故やってくるかという伏線にもなっている)エレベーターだけが唯一の出入り口。このエレベーターが時々、地下で動かなくなり、ついでに地下室の明かりも消えて怪奇現象が起こる。しかし、特に高層階の住民たちは、「勝手に地下室に連れてかれるかも…」と思いながらもエレベーターを使わざるを得ない。読んだ当初は(10年くらい前か?)、この辺の恐怖が「身近なところに怖いもん見っけ!」という感じで実にうまいなと思ったのだが、今となっては、エレベーターが止まることがあるというのは常識みたいになってしまった。

このあいだの海外メーカ製のエレベーター事故以前にも、2003年に、幸い死者は出なかったもののエレベーターがベビーカーを挟んだまま動き出し、天井に挟まれ潰れてしまったという事故があった。この原因は制御装置の異常が原因とのことであったが、私は漠然とドアが開いていたら箱は動かないよう機械的な安全装置がついていると思っていたので、かなり驚き、エレベーターに対する認識を新たにした。しかし、この事故、意外と騒がれなかったのは何故だろう。国産メーカー製だったのだろうか?
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投稿者:親方
at 03 :46 | 書評 | コメント(0 ) | トラックバック(0 )

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