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2007 年11 月11 日

ジャッジ・島の裁判官奮闘記

NHK土曜ドラマの「ジャッジ・島の裁判官奮闘記」を観た。
通常、テレビの裁判物は現実離れした設定になっている(だって、そうしないと、現実の通りの展開なら、全く面白みに欠けてテレビ番組にならないから)が、このシリーズは、現実の裁判のリアリティを持ちつつ、本当はこういう展開であって欲しいという法律家の理想を盛り込んでいるからとても興味深く観ている。

今日の内容は、島のリゾート開発反対訴訟だった。島民が開発賛成派、反対派に二分している中、リゾート開発差止訴訟が提起された。当初の請求原因は環境権に基づく差止訴訟であり、おそらくこのままでは請求棄却で終わったことだろう。ところが、裁判官は、記録の中から地下水の問題を提起して双方に投げかける。ここがまず最初の見事なところだ。

 ところが、案の定、原告の調査結果と被告の調査結果は本件開発の地下水に与える影響について正反対の内容となった。おそらく現実の裁判ではこのままで終わったろう。ところが、テレビでは、被告が、地下水に与える影響について別の調査結果があったことを明らかにする。以前であれば現実にはありえなかった展開だが、近時の、CSRの高まり、あるいは内部告発があったときの企業ダメージへの配慮を考えれば、これからはあり得ることかもしれない。

 そして、何よりも小憎いところが、あえて被告が自らに不利な調査結果を持ち出したことの真意を裁判官が汲み取って、双方に和解を勧試するところだ。開発反対派には、証拠評価・心証を開示するばかりか、仮に被告が敗訴になったとしても第二第三の開発があり得ることを示唆して、和解に持ち込むところがまたすばらしい。
 そして、裁判官自らが現地調査をし、文献・資料を調査して、和解案の骨子をとりまとめて双方に提示する。ここまで来るとちょっと現実離れしているかと思わないでもないが、最近の薬害肝炎訴訟の高裁の和解勧告を観ていると、そういうこともこれからはあり得るのかもしれない。

 開発派も開発反対派も、どちらも住民の利益を願ってただ方向が異なるだけなのに、現実には、賛成・反対で二分して妥協の余地のなくなるところを、島の裁判官は、見事に双方の意見を調整させていく。いつも訴訟の代理人として、あるいは調停官として事件を担当したときに、お互いに自分の意見・立場にこだわって紛争がこじれていくのを見てさびしい思いがしていた。あげた拳を相手に振り下ろすのではなく、その手を相手と握手できる手にできないかといつも思っていた。何とか双方がお互いの立場を理解し合い、共感しあいながら、紛争を解決できないものか。それを見事に島の裁判官がやってのけたところがとてもすばらしいと思った。これこそが理想なのだろう(甘いと言われるかもしれないが)。

 このような裁判官、弁護士が一人でも増えることこそが、本当の司法改革であり、市民のための司法なのだろうと思った。
191028



投稿者:ゆかわat 01 :27 | ビジネス | コメント(2 )

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