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2011 年4 月20 日

災害廃棄物

 19日の日経朝刊の紙面を見ても、「がれきの撤去作業が進む中で、所有者不明の漂着物の扱いが問題となっている。国は『貴重品以外は自治体の判断で処分しても構わない』との指針を出したものの、自治体側には『勝手に処分すれば後からトラブルになるのではないか』との懸念がくすぶる。」との記事が載っている。

 廃掃法上は、不要物は廃棄物として処分できることになっている。
 しかし、廃掃法上の不要物ではあっても所有権の客体であれば所有権侵害による損害賠償は免れない。
 所有権の客体かどうかの判断基準は難しい。日経新聞には、法務省の見解として、無価値物であれば所有者の承諾なく撤去したり廃棄したりしても所有権侵害にはならないとの見解が示されているが、無価値物かどうかの判断基準はどこにおくのか。廃掃法の適用対象となるかどうかという「不要物」概念には客観的基準を設けることができたとしても、民法・憲法の基本原則である所有権の客体かどうかの判断基準は、主観的要素も無視できず、やはり微妙と言わざるを得ない。アルバムや位牌などは、一律に廃棄せず、別途保管し、所有者等に引き渡す機会を設けることが望ましいとの指針が示されているというが、そもそも所有権の客体にあたるかどうかを国が「指針」を示せるものでもない(そのような権限はない)し、「指針」に従ったから免責されるものでもない(法規としての効力はない)。

 「廃棄物資源循環学会シリーズ?災害廃棄物」(中央法規)という本を見つけた。阪神淡路大震災の経験も踏まえて出版されているにもかかわらず、上記のような災害廃棄物の基本に関する記述はどこにもない。おそらく阪神淡路大震災のときも、現場の対応で「うまく」切り抜けられたということにすぎず、その経験は何ら法的に整理されなかったのだろう。
 同書籍によると、国は震災や水害時の廃棄物処理に係る防災体制の整備を図るように自治体に繰り返し要請してきたが、2008年4月時点で震災廃棄物・水害廃棄物処理計画を策定した自治体は60%以下であったという。東北の自治体がどの程度これらの処理計画を策定していたのかは不明だが、仮に策定していたとしても、ここまで広域的複合的な被害が発生することは予想していなかっただろうから、全く機能していないのではないだろうか。

 しかし、そもそも国が定めた震災廃棄物対策指針も水害廃棄物対策指針も、震災廃棄物・水害廃棄物がそもそも一般廃棄物なのか産業廃棄物なのかの判断指針も示していない(指針で示すことのできる問題でもないが)し、どの程度の損壊をもって廃棄物とするのか、その場合の所有者の承諾は必要なのかについての判断指針も示されていない(それも指針で示せるものではないが)から、自治体が有効適切な震災廃棄物・水害廃棄物処理計画を定めることができるはずがない

 指針などではなく、法律で、震災廃棄物・水害廃棄物に対する明確な処理基準を定めるべきである。この地震大国で、そのようないわば基本的法律が制定されていないことに、今さらながら驚いている。
 


投稿者:ゆかわat 13 :01 | ビジネス | コメント(0 )

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