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2016 年10 月15 日

水道水と地下水を混合して利用する「地下水利用専用水道」の使用者を対象とした水道施設維持負担金制度の創設についての意見

京都市で「水道水と地下水を混合して利用する「地下水利用専用水道」の使用者を対象とした水道施設維持負担金制度の創設についての意見」パブリックコメントを求めていた(募集期間は10月14日までのため、京都市のHPでは現在は閲覧できない)ので、以下のような意見を提出しました。
 これは平成13年水道法改正により規制緩和された地下水利用専用水道の導入による課題について、京都市は水道料金の改訂ではなく、新しい水道施設維持負担金の創設をめざすことについての意見を求めるものです。既に類似の制度は、神戸市で導入されています。もっとも、神戸市では特段の議論はなかったようです。


1.制度導入の背景について
 「地下水利用専用水道の設置が拡大しており、それに伴い地下水利用専用水道の導入による水道水の使用水量が減少している一方で、地下水利用専用水道使用者は地下水が利用できなくなる場合に備えて施設規模に見合った給水管を接続しており、京都市はそれに対応できるように配水管をはじめとする水道施設を維持管理する必要があるが、地下水利用専用水道使用者は通常時は施設規模に対して少量の水道水しか使用しないため、水道施設の維持管理に係る経費の負担が適正でなく、他の水道使用者との公平を欠く状況にあることが問題である」との制度導入背景(立法事実)の認識には賛成できません。
(1) 第一に、平成13年水道法改正により国が地下水利用専用水道の設置を承認し、かつ、京都市もそれに応じて地下水利用専用水道の設置を認めているのに、一転して京都市がそれが問題であるとして地下水利用専用水道使用者に負担増を求めるのは、国の水道法改正の目的効果を阻害するものであるばかりか、行政上の信義則に反しています。

(2) 第二に、「地下水利用専用水道の導入による水道水の減少水量は平成27年度末現在で年間365万?と推計している」とありますが、
? 本当に地下水利用専用水道の導入によって水道水の使用量が365万?も減少したのでしょうか?
? その推定の根拠は何でしょうか?
? 平成12年度から平成27年度までの京都市における水道水使用量の推移はどうなっているのでしょうか?
? 地下水利用専用水道の導入が原因となって水道水使用量が現実に減少してきているのでしょうか?
? 地下水利用専用水道の導入により平成27年度末で年間365万?(京都市全体の水道水使用量の2.2%)減少したと推定されるというのは、現実にそれだけ水道水の使用が減少したということなのでしょうか?
? 仮に水道水の使用量が2.2%減少したとしても、それは平成13年水道法改正により地下水利用専用水道の導入を認めた以上やむを得ないことではないのでしょうか?

(3) 第三に、「地下水利用専用水道の使用者は不足分を水道水でバックアップできるよう施設規模に見合った配水管を接続しています」とありますが、地下水利用専用水道使用者が施設規模に見合った配水管を接続しているのは、使用者の意向ではなく、京都市の指導によるものではないのですか?使用者は、現実にそのように大量の水道水を使用する見込みはなく、本来であればより小規模の配水管の接続で足りるのに、京都市の指導のため、使用する見込みもないのに施設規模に見合った配水管を接続し、その分多額の加入金等を納付しているのではないのですか?

(4) 第四に、「水道法により給水義務を負う本市はそれに対応できるように配水管をはじめとする水道施設を維持管理する必要がある」とありますが、
? 地下水利用専用水道の導入により余計に京都市が負担しなければならなくなった水道施設の維持管理費用(逆に言えば、地下水利用専用水道の導入がなければかからなかった維持管理費用)はいくらであると推定しているのですか?
? 地下水利用専用水道の導入により京都市全体の水道水の使用量が減少したのは2.2%であるというのに、それ以上の施設維持管理費用が発生しているのですか?

(5) 第五に、「地下水利用専用水道使用者は通常時は施設規模に対して少量の水道水しか使用しないため、水道施設の維持管理に係る経費の負担が適正でなく、他の水道使用者との公平を欠く状況にある(から水道施設維持管理負担金を導入する)」ということは、要するに、地下水利用専用水道使用者の施設規模に見合った給水ができるように水道施設の維持管理をしているのに、地下水利用専用水道使用者はそれに見合った水道水を使用しておらず適正な水道料金を負担していないから、従量制によらない基本料金として維持管理負担金を徴収したいということを言っているに等しいものです(パンフレット5頁の、基本料金を低く据え置いているのに「少量の水道水しか使用しないため固定費が回収できない」というのは、より端的に基本料金が低すぎると言っているのと同じです。)。それであれば、地下水利用専用水道使用者の基本料金を値上げしたいと言えばよいのではないですか?そういわずに、水道施設維持管理負担金を創設するという回りくどい表現をするのはどうしてですか?

(6) 最後に、
? 水道事業会計は大幅な赤字なのでしょうか?
? 今後の見込みはどうでしょうか?
? 水道施設維持管理負担金制度を創設することにより赤字が解消するということでしょうか?
 
2.水道施設維持管理負担金制度について
 制度の導入には反対します。
(1) 制度導入の背景(立法事実)に照らすならば、地下水利用専用水道使用者と一般の水道使用者との負担の適正化・公平を図るためには、基本料金の値上げで対応すべきです。水道料金とは別物である水道施設維持管理負担金の内容と立法事実は対応しません。すなわち、立法目的達成手段たる水道施設維持管理負担金と立法事実との間には合理的な関連性がありません。

(2) 水道施設維持負担金の法的根拠・法的性質は何でしょうか?
 京都市が水道料金とは別に水道施設維持管理負担金を徴収できるとすると、その法的根拠は、水道法、地方公営企業法及び地方自治法に求めるしかありません。
 水道法が認める収入としては、水道料金、給水装置工事の費用、水道の需要者が負担すべき費用(規則12条の3第2号)しかありません。しかし、料金にしても、給水装置工事の費用にしても、水道の需要者が負担すべき費用にしても、「その金額が、合理的かつ明確な根拠に基づき設定されたもの」でなければなりません(規則12条の3第2号)。しかし、後述する通り、水道施設維持管理負担金の算定式を見る限り、その額が「合理的かつ明確な根拠に基づき設定されたもの」であるとは到底思われません。
 地方公営企業法では「料金又は料金以外の使用料、手数料、分担金若しくは加入金」(9条9号)しか徴収できません。
 地方自治法が認める収入としては、地方税、分担金、使用料、加入金及び手数料がありますが、水道施設維持管理負担金の根拠となりそうなものとしては、同法224条の分担金(同条は「数人又は普通地方公共団体の一部に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため、当該事件により特に利益を受ける者から、その受益の限度において、分担金を徴収することができる」と定める。)しかありません。しかし、 「分担金」にしても「受益の限度において」徴収できるにすぎません。
 水道施設維持管理負担金は、その制度目的及び算定式に照らす限り、「その金額が、合理的かつ明確な根拠に基づき設定されたもの」(水道法施行規則12条の3第2号)でも、受益の限度に応じたものでもありません。そうすると、水道施設維持管理負担金は、京都市が条例や供給規程で定めて一方的に徴収できるものではないのではありませんか?そうすると、これは地下水利用専用水道使用者との個別契約によって徴収することができるにすぎないものではありませんか?もしそのような性質の金員であるとすれば、それを条例で定めてあたかも一方的に徴収できるかのように装うのは京都市としてフェアではありません。
 
(3) 水道施設維持管理負担金の算定方法はおよそ合理的ではありません
ア) 水道施設維持管理負担金の額は、負担金対象数量(計画使用水量―実際の水道水の使用量×2)×負担金単価(1?当たりの固定費)で算定するということですが、頭の悪い私には、どうして計画使用量―実際の水道水の使用量×2が負担金対象数量になるのか、どうして実際の水道水の使用量×2であって、×2が×1や×3でないのか、どこから×2という数字が出てくるのかさっぱり理解できません。また、パンフレットの次の◇の「実際の水道水の使用量が計画使用水量の1/2に満たない場合計画使用水量の1/2を下回った量に応じて負担金の額を算定します。」というに至っては、これが最初の◇の負担金の算定式と同じことを言っているのかどうかすら理解できません。
イ) しかし、計画使用水量―実際の水道水の使用量×2に負担金単価を乗じて負担金を算定するという計算式からは、地下水使用量(逆に言えば、水道水を利用しなかった量)に負担金単価(従量料金に配分した固定費を水道水量で除した単価)を乗じた金額を課金しようとするものであることが理解できます。要するに、水道水を使用せずに地下水を使用した者に対して、その水道水を利用しなかった分(すなわち、地下水を利用した分)について水道料金を課金するというのが水道施設維持管理負担金だと理解できます。
ウ) 水道施設維持管理負担金が実際に使用しなかった水道水に対して課金するというものであるとすれば、仮にそうでないとしても、計画使用量という現実の使用量ではなく観念的な数量から、実際の水道水の使用量の2倍というこれまた観念的な数量を控除した数量に対して固定費単価を乗ずるというのは、現実の水道水使用量から離れた観念的な数量に対して課金するということですから、およそ受益の限度に応じた課金ではありません。受益なきところに課金するものですから、分担金の制度趣旨に反するものであることは明らかです。また、実際に使用しなかった水道水量に対して課金するというのは、「合理的かつ明確な根拠に基づき設定されたもの」であるとは到底解されませんから、水道法に反するものです。いずれにしても水道施設維持管理負担金は違法というほかありません。
エ) 地下水利用専用水道使用者に新たに課される水道施設維持管理負担金の額は、水道料金の基本料金・従量料金と比較して、どのような数字になるのでしょうか?もし水道施設維持管理負担金の額が基本料金の何倍もの金額となったり、これまでの水道料金とほぼ等しい金額となったり、地下水使用量に水道料金を課するのと同程度の金額になるのであれば、特定の者に対する不当な差別的取り扱いと言わざるを得ないと思われます。

(4) 水道施設維持管理負担金は、特定の地下水利用専用水道使用者58業者に対してのみ課金するものとなっています。水道施設設置による利益は水道水需要者全員であるのに一部の者に対してだけ課するものになっているのは、特定の者に対する不当な差別的取扱い(水道法14条2項4号)にあたるのではないでしょうか?
 そもそも大口の地下水使用者には、地下水利用専用水道使用者の他にも、工場等があるのではないでしょうか?そういう工場等でも水道水に代えて地下水を利用しているところがあるのではないでしょうか?そういう工場等は除外して、地下水利用専用水道使用者のみを課金の対象とするのは合理的なのでしょうか?
 しかも、地下水利用専用水道使用者も、使用する見込みもないのに、京都市の指導に従って施設規模に見合った配水管を接続し、それに応じた加入金と基本料金を支払っているのに、なおかつ当該58業者に対してのみ水道施設維持管理負担金を課するのは明らかに不当な差別に当たり違法であると思います。

(5) 水道施設維持管理負担金の本質は、水道料金のうち基本料金に他ならないと思われます。しかし、水道料金は「能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なもの」(水道法14条2項1号)でなければならず、「原則として当該給水に要する個別原価に基づいて設定されるべきもの」(最高裁平成18年7月14日判決・高根町給水条例事件)でなければなりません。同事件では、別荘所有者に対してのみ基本料金を2倍に増額することは不当な差別的取扱いにあたるとされました。それでは、水道施設維持管理負担金の額は個別原価主義に照らして妥当なものなのでしょうか?先に見た通り、水道施設維持負担金は、水道水の給水を受けない、地下水利用分に対して水道料金を賦課するに等しいものであるとすれば、およそ合理性はなく、特定の58地下水利用業者だけを狙い撃ちにした、不当な差別的取扱いであり、水道法14条2項4号に違反すると思われます。結局、施設維持負担金とは違法な水道料金の名前を付け替えただけであり、水道法に違反することは前記最判に照らしても明らかではないでしょうか。

(6) 計画使用水量は上下水道局が認定するということですが、「通常時の使用水量」というのも分かったような分からない話です。水の使用量というのも、月ごとに変動するものでしょうし、猛暑の年やそうでない年等でばらつきもあるでしょう。「通常の使用水量」というのは、所詮は仮想の数字であり、平均気温などというのと同様、実体のない観念的な数字にほかなりません。そのような観念的な数量を「通常時の使用水量」と認定するための認定の基準はどうなるのでしょうか?そのような仮想の数字を水道施設維持管理負担金の課金根拠とするのは極めて危険なことだと思います@。

(7) 以上の問題点につき十分に検討を尽くし、さらには対象業者とも十分な協議を尽くし理解を得たうえで制度化されることを望みます。拙速に条例化を進めても、後に対象業者から訴訟を提起されたときには、京都市が敗訴するおそれも高いと思われます。そうはならないように、十分検討協議を尽くされることを望みます。

投稿者:ゆかわat 09 :03 | ビジネス | コメント(0 )

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