2005 年10 月16 日
鳥取県人権救済条例
10月12日の鳥取県で人権救済条例が成立した。人種等を理由とする差別的取扱や社会的信用を低下させる目的で公然と誹謗・中傷する行為等(人権侵害)を禁止し、人権救済推進委員会が人権侵害に関する県民からの相談に応じたり、調査を行い、必要があると認めるときは関係者に助言・援助その他の措置をとり、生命身体に危険を及ぼす行為や公然と繰り返される差別的言動等重大な人権侵害が現に行われる場合等に必要な場合は人権侵害を止めるよう勧告し、その勧告に従わないときはその旨を公表するという内容だ。(詳細は、http://www.pref.tottori.jp/jinken/jourei.html)
それに対して、鳥取県弁護士会が「侵害者に対し、(1)是正の勧告をし、従わない場合は氏名を含め公表をする、(2)調査協力拒否の場合、5万円以下の過料を科す―の2点について「刑事罰に匹敵する制裁」である。反対尋問権などが与えられておらず、刑事被疑者にすら認められている人権が保障されていない。憲法31条、21条の言論・表現の自由などにも抵触する。人権擁護制度が逆に国民の基本的人権を制約するという、構造的かつ致命的な欠陥を有している」という内容の反対の声明を発表した。
私としては、人権救済は、本来は裁判や調停などの私法的救済手続がとられるべきものであり、その補完的な役割を、法務大臣の所管の法務局の人権相談所や人権擁護委員が相談に当たったり、弁護士会の人権擁護委員会が人権救済申立を受け付けたり、放送と人権等権利に関する委員会が放送による人権侵害に対する苦情を取り扱っているのであり、県条例による人権救済推進委員会がそれらとどう整合性を持って活動できるのかにやや疑問を持っているが、その点を除けば、人権救済のチャンネルが幾層にもわたって用意されるのは人権擁護の見地からは歓迎すべきことであるし、人権侵害の有無を調査するには調査への非協力に対して行政罰としての過料を科することくらいは認められるべきだし、人権侵害中止勧告に従わない者に対して氏名公表を認めることは、条例の性格上、緩やかすぎることはあっても刑事罰に当たるとまで非難することはないように思われるし、総じて県条例が国民の基本的人権を制約するとまでは言えないように思われる。
それにもかかわらず、鳥取県弁護士会が昨年暮れに引き続き2度にわたってまで、やや激越とも思えるほどの反対声明をしているのには、よほどその背景に危険なものやあるいは濫用の危険があるのであろうか。鳥取県弁護士会のHPを見ても、まだ反対声明の全文やその趣旨が公表されていないために詳細が分からない。鳥取県弁護士会は、今年の日弁連の人権擁護大会開催地であるだけに、その動向が気になるところである。
その後も、条例に対する批判が強いようだ。10月17日の夕刊には、新聞・放送など15社が「報道の自由を制約する。メディア規制につながりかねない」として反対の声明文が出されたと報道されている。
おそらくは、人権侵害救済推進委員会による調査に拒否したら罰則があるという点に対する懸念であろうが、そもそも罰則ではなく行政秩序罰としての過料にすぎないし、「正当な理由」による調査拒否は過料の対象にはならないから、報道の自由に対する制約にはなり得ない。メディアこそ名誉・信用を毀損するおそれもある社会的権力であるから、一定程度の規制・制約は自重のためにも必要なのではないか。中には過料に対しては抗弁の機会がないとする批判もあるが、過料に対しては事前に弁明の機会を付与すべきことが地方自治法に規定されている。批判するものも、もう少し勉強してから批判すべきではないか。
投稿者:ゆかわat 21 :31| ビジネス | コメント(0 ) | トラックバック(0 )