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2011 年08 月14 日

住所決定権は誰にあるの?

大阪市と八尾市にまたがるマンションに入居した住民Xが八尾市に住民登録を受けたため、それを不服として大阪市に転入届を提出したところ、不受理処分を受けた事件(大阪地裁平23年6月24日判例集未搭載)がある。
Xとしては、大阪市には敬老優待乗車証があるが、八尾市にはそのような制度がないので、固定資産税も大阪市に納付しているので、大阪市から敬老優待乗車証の交付を受けたいというのが一番切実な理由だった。

大阪地裁は、Xの居宅住戸は八尾市側にあり、その面積の大部分が八尾市側にあるから、Xの住所は八尾市にあると認められるので、大阪市が転入届を不受理処分としたのは違法ではないし、住所が大阪市にない以上、大阪市の実施要綱に住所要件があるのであるから、交付要件に該当しないので、敬老優待乗車証の交付を受けうる地位にあるとは認められないとしてXの請求を棄却した。

しかし、この判断には以下の通り疑義がある。

1.本件不受理処分の違法性について
 本件マンションのように、建物が二つの行政区画にまたがって建っている場合、その生活の本拠は大阪市にも八尾市にもいずれにも生活の本拠があるということになるのか、それとも生活の本拠は客観的にいずれかに定まるという前提に立つのか。
 この点は、生活の本拠は客観的にいずれかに定まるとする原審の立場が正当であると思われる。
 しかし、生活の本拠が客観的に一つに定まるということと、それを行政上の区域割のどこに認められるかということとは別ではないか。すなわち、本件では生活の本拠が複数の行政上の区域にまたがって存在するときに、その生活の本拠をどこの行政上の区域にあると観るべきか、あるいはどこの行政上の区域にあるとみるのが妥当かというのが最大の争点である。

 ところで、この点、原審は、生活の本拠は行政上の区域のどこか一つに決めるべきだという前提に立っているが、はたしてそれが妥当か。生活の本拠が複数の行政上の区域にまたがって存在している以上、その生活の本拠をそれぞれの行政上の区域にあるものと考えるのが自然であって、それは生活の本拠は一つであることと何ら反するものではない。
 したがって、Xは大阪市民でもあるし、八尾市民でもあるというべきではないか。但し、それが二重の権利を意味するものではないので、投票権や社会保障上の地位等はいずれか一つに決定される必要があるし、逆に、そういう性質の権利利益でない限り、Xはいずれの権利も享有することができるし、その裏返しとして義務も負うと考えられる。

 もし生活の本拠はいずれかの行政上の区域に決定されなければならないとしても、本件でされたように、大阪市長と八尾市長の協議ないしその認定のみによって住所がいずれかが決定されるというのは、生活の本拠を決定する主体が住民であることを無視した考え方であって正当ではない。住所決定の自由が住民の憲法上の権利である(憲法22条1項居住の自由)ことに照らせば、住所の決定に当たっても、住民の選択権ないしは少なくとも住所決定に当たっての手続参加権なり意向聴取の機会は与えられるべきである。したがって、行政主体の長の協議に基づいて行政主体が住民の住所を認定したというのは、当該住民の意向すら聴取していない点において明らかに違法である。

2.敬老優待乗車証の交付を受けうる地位について
 原審は敬老優待乗車証の交付を受けうる地位は住所(Xが大阪市民であるかどうか)によって決定されるとして簡単に棄却した。これは、先の地位は住所の効果であると考えるものである。
 しかし、敬老優待乗車証の交付の法的性質は、大阪市と住民との間の公の施設の利用料金に係る契約である。住民であることによって当然に交付されるものではない。
 高根町給水条例事件最高裁判決の趣旨に照らせば、住民に準じる地位にある者に対しての公の施設の利用は平等に取り扱われなければならない。
 しかるに、原審のように、大阪市民でないことのみを理由として、大阪市民に準じる地位にある住民について、大阪市民と明らかに異なる取扱いをすることは憲法上の平等原則並びに地方自治法及び地歩公営企業法に反するものであるから、そのような取扱いを定める大阪市実施要綱は違法であり、またそのような取扱いも違法である。したがって、原告が敬老優待乗車証の交付を申請したときは大阪市はXが大阪市民ではないという理由のみでその交付を拒否することは違法である。

投稿者:ゆかわat 23 :43| ビジネス | コメント(0 )

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