2011 年08 月23 日
天竜川下り転覆事故
天竜川下り観光船の転覆事故を受けて、国土交通省近畿運輸局は保津川下りを運航する遊船企業組合に立ち入り検査に入り、乗員全員に救命胴衣を着用させるよう緊急指導をした。ところで、新聞記事によると、法は12歳以下の乗員に対してのみ救命具の着用を義務づけているばかりか、保津川下りの舟のようにエンジンを積んでない舟には乗客の救命胴衣着用の法律上の義務はないという。
しかし、川下りを規制する海上運送法及び同法施行規則をざっとみる限りは、法は救命胴衣の着用義務を明文では規定していない。
別の報道では、船舶職員法で12才未満のみ救命胴衣の着用を義務付け、それ以外は努力規定となっているとの記事もある。しかし、船舶職員法をざっと見る限りそのような規定はない。そもそも船舶職員法は船舶職員に関する法律だから、船舶の乗客に関する規定がなされているはずもない。
そうすると、考えられるのは、一般旅客定期航路事業者が国土交通大臣に届け出る安全管理規程の中で、事業者自身が輸送の安全を確保するための事業の実施に関する事項として自主的に定めたということだろうか。
新聞記事から推測すると、安全管理規程には国土交通省の定めるモデルがあるのであろうか。そして、安全管理規程に定めた以上は、それを遵守する義務があるということだろうか。
もし法の仕組みがこういうことであれば、緊急指導や立ち入り検査というのは、筋違いという感がする。
そもそも法は「法律の施行を確保するために必要があると認める場合」に限って立ち入り検査を認めているだけであるから、法が直接的に救命胴衣の着用義務について定めていない以上、立ち入り検査の根拠・必要性を欠くと思われる。
それに、これまで保津川下りでは天竜川のような事故もなし、保津川遊船企業組合の安全管理規程に疑義が生じたという事情もうかがえないのであるから、立ち入り検査の必要はないのではないか。
行政指導にしても、法律上それを行う要件は明示されていないとしても、処分と同様の事実上の効果・社会的制裁を伴うものであるから、それを行う必要性・相当性が求められるというべきだ。
規制立法にはその規制の必要性と相当性を支える立法事実が必要だ。行政指導も同様というべきだろう。今回の緊急指導の合理性を支える事実は一体何なのだろうか。よそで事故があったということがその立法事実になるのであろうか。
投稿者:ゆかわat 22 :10| ビジネス | コメント(0 )