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2013 年12 月03 日

諫早湾開門をめぐる二つの裁判

この事件の一番難しいところは、国が諫早湾干拓地潮受堤防を作ったことにより、その開門により、漁業者の中でも諫早湾内で漁業を営む漁業者と湾口及びその近傍部で漁業を営む漁業者との間で利害が対立し、湾内の干拓地の農業者の利益も、さらには堤防後背地の洪水・湛水被害も考えなければならなくなったことだ。

先の2010年の福岡高裁確定高裁判決においても、これらの諸利害の調整は争点となった。しかし、高裁判決では、開門した場合のこれらの被害は証明されていないとされ、他方、堤防による諫早湾口及びその近傍部で漁業を営む漁業者の被害が重大であるという理由で開門を命じた。

ところが、今回の長崎地裁の仮処分決定では、開門によって、確定高裁判決では証明がないとされた湾内の漁業被害や農業被害や湛水被害のおそれがあるとされた。

裁判内容が矛盾しているのはその通りだが、仮処分決定はまだ確定したわけではないので、今後の異議審・抗告審で、裁判内容の調整が行われることになると思割れる。

しかし、今回の仮処分決定が確定することもありえる。なぜそうなるとかというと、両事件は当事者が異なるので、確定判決の既判力が及ばないからだ。その場合はどうなるかというと、国は、諫早湾口及びその近傍部で漁業を営む漁業者との関係では開門義務を負い、諫早湾内の漁業者等との関係では開門してはならない義務を負うことになる。まさに義務の股裂き状態、ジレンマだ。

どうしてこのようなジレンマが生じたかというと、国の事業によって広範な人たちの利害関係が複雑に絡み合った事件を、民事訴訟手続きで解決しようとしたことに原因があるということができる。
民事訴訟手続きは、裁判を申し立てた当事者の間だけで審理してその提出した証拠に基づいて判断することになる。本件のような複雑に利害が絡み合う事件を、特定の当事者の攻防にだけ委ねるのは適切ではない。広く利害関係を有する者も、専門家も参加する、フォーラム型の審理で解決していく必要がある。
そのための一つの方法は、公害紛争処理法の裁定を活用する方策だ。本件が公害といえるのか微妙だが、裁判所が原因裁定を公害等調整委員会に嘱託するのだ。
あるいは、行政事件訴訟法の公法上の法律関係に関する当事者訴訟を活用すれば、その判決には行政庁に対する拘束力があるので、少なくとも義務の股裂き状態は避けられたのではないかと思われる。

しかし、いずれの手続も本件のような複雑な事件を解決する最適な制度とは言えないので、新たな制度設計を今後考えていく必要があると思う。

インタビュー記事が掲載されましたので、こちらもどうぞ。

・諫早湾「水門開けるな」と長崎地裁 「開けろ」という高裁判決との矛盾は解決できるか

http://www.bengo4.com/topics/1001/


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131129-00001001-bengocom-soci

投稿者:ゆかわat 08 :32| ビジネス | コメント(0 )

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