2019 年01 月12 日
民事訴訟のIT化
世の中、何でもIT化で、いよいよ、最もIT化から取り残れていた裁判の世界にもIT化の波が押し寄せてこようとしている。諸外国ではどうのとか、OECD加盟国の中で日本の裁判IT化は下のほうだとか言われている。しかし、民事訴訟の本質は争いのある法律関係の確定です。行政の申請手続や会社の会議のように、皆が同一の方向に向いているのではなく、当事者間や当事者と裁判所との間で争いがあります。
争いのある訴訟を進めるための道具が弁論です。その核心は口頭弁論です。
口頭弁論の目的は、当事者・裁判所三者間のコミュニケーションによる審理の充実です。
したがって、問題は、原告・被告・裁判所三者間コミュニケーションためにITをどう活用できるのかというところにあります。ITがコミュニケーションにとって有効であるならばIT化を進めればよいが、ITだけではコミュニケーションが完結しないのであれば民事訴訟のIT化だけを進めればよいというわけにはいきません。
皆さん自身ご経験のあるところだと思いますが、書面(紙媒体であれ、PC画面であれ)だけで書面を書いた人の言いたいことが分かる場合もあれば、分からない場合もあります。むしろ、口頭で議論していてはじめて、ああこの書面はそれが言いたかったのか、ああここに書いてあるこの言葉がそれを意味していたのかということが分かったという経験がおありだと思います。
コミュニケーションをする上で重要なのが相手方と対面することです。リアルタイムで自分の考えを伝える、相手の考えを知るためには、口頭で行うのが一番です。書面では書く時間が必要であり、どうしてもリアルタイムで伝え知ることは無理です。簡単な会話はチャットでできるでしょうが、争いのある事件の解決のために、事実を伝え、証拠の核心・見方を議論し、考えを理解してもらうためには、チャットでは無理です(もちろん、中にはできる人もいるでしょうが、裁判では平均的な人は誰でもできるものでなければなりません。)。
さらに、相手の考えを知るためには、言葉を聴くだけではなく、相手が何を見ながらそれを言っているのか、同じものをリアルタイムで見る必要がありますし、また相手の表情をリアルタイムで見る必要があります。そこにPCの操作が必要だということになると、どうしてもリアルタイムでのコミュニケーションができません。
したがって、民事訴訟全面IT化はリアルタイムでのフルコミュニケーションには適合しない(漫画や映画のように電脳仮想空間で行えるようになれば別ですが)ので、当事者が遠隔地にいる等の事情により三者がそれに同意している場合でない限り、許されないというべきだと考えます。
当面は、ITが民事訴訟のコミュニケーションツールとしてどこまで使えるのかを見定めていくということではないでしょう。それを通り越して、今の時点で何時いつまでに法改正もして民事裁判の全面IT化を進めるというのは、将来的な政策目標としてであればともかくとして、現実的な課題としては誤りであると考えます。
投稿者:ゆかわat 07 :56| ビジネス | コメント(0 )