<< 前のエントリ |メイン | 次のエントリ >>
2019 年05 月01 日

最三小判平成30年11月6日加古川市職員停職処分事件判決(裁判所HP,判例地方自治444号50頁)

この事件は最高裁のHPの裁判要旨では次のように紹介されています。

地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員の手を自らの下半身に接触させようとするなどのわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分がされた場合において,次の(1)〜(5)など判示の事情の下では,上記処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
(1) 上記行為は,上記職員と上記従業員が客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた。
(2) 上記行為は,勤務時間中に市の制服を着用してされたものである上,複数の新聞で報道されるなどしており,上記地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであった。
(3) 上記職員は,以前から上記店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,これを理由の一つとして退職した女性従業員もいた。
(4) 上記(1)の従業員が終始笑顔で行動し,上記職員から手や腕を絡められるという身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地がある。
(5) 上記従業員及び上記店舗のオーナーが上記職員の処罰を望まないとしても,それは事情聴取の負担や上記店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。

しかし、この判決には疑問があります。
1 懲戒処分の当否は処分庁の裁量判断の当否を問題とするものであるから、事実審である地裁・高裁の判断が尊重されるべき。地裁高裁が原処分取消の判断をしているのに、あえて最高裁がこれを破棄自判するのが許されるのか。

2 最高裁の判断において重視された(4)(5)は、事実審の事実評価をことさらに否定するものである。(4)については原審では被害者の同意があること、(5)については被害者が処罰を望んでいないことが原審では重視されたのを、最高裁は、否定するものです。そればかりか、評価が変わっただけではなく、その評価は、原審で事実認定されていない事実を推測により補うものではないか。これは、事実審ではない最高裁による判断代置ではないか。

3 最高裁が重視した(3)は、処分庁によっても直接的な処分理由ではなく情状にすぎないと位置づけられていたものである。最高裁は処分庁の判断を超えて、最高裁自身が判断代置をするものではないか。

4 原審は最高裁の掲げる事情を考慮したうえで原処分を取り消しています。原審は最高裁の掲げる事情は、停職処分を選択したことの適否において考慮したうえで、ただ停職6か月は重過ぎると判断したものであって、効果裁量の適否を処分の種類の選択、停職処分の期間の選択の両面にわたって密度高く審査したのに、最高裁は停職処分の選択さえ合理的であればその停職期間の選択は処分庁の広い裁量が許されるとしてほとんど全く審査しないという、昔の緩やかな裁量判断手法をとっているのではないか。


国民の権利自由を尊重する方向ではなく、行政判断を尊重する方向に最高裁が傾斜しているのではないかと思われ、それがこれからの令和の時代にはふさわしいのだろうか。大変気がかりである。

投稿者:ゆかわat 09 :51| ビジネス | コメント(0 )

◆この記事へのコメント:

※必須