法社会学会出席
今日は、久しぶりに法社会学会に出席することにした。阪急の甲東園駅から瀟洒な住宅街と文教地区を通り抜けて関西学院大学のキャンパスに着く。ヨーロッパ風のテーマパークのようなキャンパスだ。出席したのは「司法過疎」のミニシンポジウム。
奈良女子大の大塚浩先生の報告は、奈良県の法律相談の調査結果を踏まえて、司法過疎地内格差を相談事業によって克服することは困難であり、弁護士の開業を待つほかにないというもの。
大阪市大の阿部昌樹先生の報告は、司法過疎地の調査を踏まえて、法律相談センターの開設は弁護士を身近な存在として認識させる効果はあるものの、法を身近なものとして意識させる効果はないし、法的紛争解決意欲を高めることもない。それに対して、公設弁護士事務所の開設は既存の相談機関のネットワークと関連をもつことによって地域のメディアや既存の相談機関の「法の語り」を豊富化し、地域の人々の法的紛争解決意欲を高め、地域の人々の意識や行動を変化させていくというものだ。
阿部報告も新鮮だったが、埼玉から北海道大沼町に移った司法書士の実践談は強烈だった。非弁活動にあたらないかやや心配なところもあったが、多重債務問題を中心に自己破産申立てや個人再生申立てや、さらには消費者金融業者から総額1億円以上の過払金返還を勝ち取った話を聞いた。その他にも学校での講演活動などもしておられるようで、今年6月には司法過疎対策センターを設立するという。
また、長岡弁護士(山形県弁護士会)からは、司法過疎に対する日弁連の取組みの紹介があった。そこで気を引いたのは、日弁連は旭川地裁管内に3つの公設事務所を作ったが、裁判所はどこも裁判官が常駐しておらず、1ヶ月に1回2泊3日の予定で裁判官が出張に来るだけで、その間に調停も民事訴訟も刑事訴訟も入れるから、弁護士としても調停事件は受任できず(調停事件は裁判官が立ち会わずその間に法廷に入るので弁護士が調停事件を受任すると今度は訴訟事件が何件も受任できなくなる。)、本人調停にならざるを得ないという。今のところ、この秋から稼働を始める司法支援センターにしても、紛争の法的解決機関ではない。
(注:旭川の公設事務所の数に誤りありました。長岡先生からご指摘を受けましたので、訂正した内容にしてあります。)。
結局、司法過疎は、最初は司法書士過疎、弁護士過疎が当面の課題であるが、それを克服した後に残る最大の問題は、裁判官・検察官過疎ということだ。しかし、公務員数削減の世の中で裁判官数・検察官数のみを急増することもできず、結局は、いかに裁判所に代わる紛争解決機関(ADR)を設置するかということなのだろうか。
投稿者:ゆかわat 23 :45| 日記 | コメント(1 ) | トラックバック(2 )
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◆この記事へのコメント:
◆コメント
5月の法社会学会に参加していただき、その中でも、私たちの司法過疎に関するシンポをお聴きいただき、ありがとうございます。
そのシンポで報告を担当した長岡壽一です。日弁連公設事務所・法律相談センター(LC委員会)では、10年ほど前から、相談センターや公設事務所が地域の住民の法意識に及ぼす影響について、法社会学的検討をしておりますが、それを発展させて、法社会学者による実地調査と分析をしたのが、今回のシンポのもとになっています。
「司法」過疎は、弁護士の数もさることながら、検察庁や裁判所の問題の方が、困難な課題を含んでいると思います。そのなかで、弁護士会ができることを、できる範囲でやろうというのが、ひまわり基金で、公設事務所です。
2001年に創設した後、今日までに、70か所に公設事務所が設置されました。それぞれの地域において、とても有用な活動をしています。これからのご支援くださるよう、お願いします。
なお、ご紹介内容のうち、旭川地方裁判所管内に4支部があること、そのうち3箇所(紋別、名寄、留萌)に公設事務所を開設したこと、が正しい報告内容ですので、ご了承ください。
投稿者: 長岡壽一 : at 2006 /07 /16 15 :57