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2007 年03 月14 日

最高裁判例ノート〜被爆者援護法健康管理手当消滅時効事件

 最高裁第三小法廷(藤田宙靖裁判長)平19.2.6は,被爆者援護法等に基づく健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が出国に伴い支給を打ち切られた健康管理手当の支給を求める訴訟において,被告自治体が地方自治法236条所定の消滅時効を主張することが信義則に反し許されないとした。

 地自法236条1項は,金銭の給付を目的とする自治体の権利及び自治体に対する権利は,時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか,5年間これを行わないときは時効により消滅すると定め,同条2項は,前項の時効消滅については時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することができないと定める。

 行政では,従来,この条文を根拠に,5年以上前の金銭債権の支払には応じてこなかった。たとえば,私が担当した事件で、小規模住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例の不適用事案につき,5年を遡る返金を拒否する理由がこれであった。そこで,やむなく,この種事案では,国賠で5年以上前のものを請求をしてきた。

 それを,本件は,行政による消滅時効の主張を信義則によって制限するという手法をとった。この法理は,もともとは,時効については「援用」というワンクッションを置くので,その「援用」を制限するという手法として考えられた。ところが,地自法が時効の「援用」を要しないとしているため,行政は消滅時効の信義則による制限は行政相手にはとりえないと言ってきた。それを否定したのだから、極めて画期的なことだ。

 それも,法廷意見では,「自治体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定される」とか,「本件のように,自治体が,基本的な義務に反して,既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し,法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱をし,その行使を著しく困難にさせた結果,これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合」に限って消滅時効の主張を制限するんだということを述べているが,藤田裁判長は,「住民が権利行使を長期間行わなかったことの主たる原因が,行政主体が権利行使を妨げるような違法な行動を積極的に執っていたことに見出される場合にまで,消滅時効を理由に相手方の請求権を争うことを認めるような結果は,そもそも同条の想定しないところと考えるべき」との補足意見を述べて,法廷意見よりもう一歩進めた一般的な言い方をして敷衍しているところからすると,消滅時効の主張制限の適用場面はもう少し増えてくるのではないかと思われる。

 たとえば,先の固定資産税の例でも,税務課の職員が「訴訟を起こされても良いですが,訴訟を起こしてもまず認められませんよ。」と窓口指導をしていたような場合は,時効の主張制限が認められるのではないか。
 最高裁には、もっと行政の適法性確保のルールづくりに努めて欲しいものだ。

投稿者:ゆかわat 00 :52| ビジネス | コメント(0 )

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