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2007 年03 月16 日

行政法の理解不足?

 金融法務事情という法律雑誌がある。その名前のとおり、金融関係の法律雑誌だ。そこに東京地裁平18.7.28判決が紹介されていた。
 事案は、宅地開発にあたってゼネコンが宅地開発会社の銀行借入を保証したが、その保証には、開発許可が出たら保証は免責する、但し、将来、許可対象の行為の変更、中止、廃止、その他の事由(中止命令を含む)により宅地開発会社が開発行為を進めることができなくなったとき等は保証債務は免責されないという特約が付されていたところ、宅地開発会社が解散・特別清算手続きを行うことになったため、許可権者から再三にわたり許可の返上を求められていたので、銀行はこれは実質的な中止命令にあたるから保証債務は免除されないとして保証債務の履行を請求した。
 東京地裁は、本件保証債務免除解除合意は、許可対象土地の担保価値変動に対応するための合意であって、担保価値に影響を及ぼすべき事情があるときは保証免除されないところ、許可権者が環境局自然環境部長・都市計画部都市防災部長・産業労働局農林水産部長名で開発許可返上を求める文書を交付しているから、許可権者は宅地開発会社に対する開発行為許可を今後維持しない方針をとっているといえるから、このような状態は本件保証解除合意の「その他の事由」にあたるものということができるから、保証債務は免除されないと判断した。

 ところで、この判決を読んで、おやっと思った。裁判所もゼネコンも銀行もそれらの代理人も行政法をご存じないのではないか。
 まず、最初に、判決では、「東京都」は宅地造成事業の開発行の許可をしたと記載されているのだが、許可権者は「東京都知事」であって「東京都」ではない。
 次に、「許可の返上を求める文書を交付した」ことが決定的な決め手になっているが、開発許可の要件には「申請者の資力・信用」が入っているが、それが開発行為中に喪失した場合の開発許可取消は、実は都市計画法は定めていない。これは法の欠如であるが、法文にない以上、許可権者といえども勝手に許可を取り消すことはできない。もしかすると、許可書の裏側に許可条件として「資力・信用が失われたときは許可は取り消されます」と記載されているのかもしれないが、法に定めのない取消を附款として定めることは違法であり無効である。だから、許可権者はやむなく「許可の返上」を行政指導したのだ。いかに東京都が「開発行為許可を今後維持しない方針をとっていた」とはいえ、許可を取り消すことはできないのである。したがって、宅地開発会社がその許可を受けた地位を譲渡すれば、許可権者もこれを承認せざるを得ないのであって、許可対象土地の担保価値に影響は及んでいない。
 しかも、私は東京都のことはよく知らないが、開発行為の許可権限は誰に専決または委任されているのだろう?宅地開発会社に開発許可の返上を求めた「環境局自然環境部長・都市計画部都市防災部長・産業労働局農林水産部長」が許可権者なのだろうか。どうもいずれの部長も違うような気がする。だとすると、開発許可権限のないものによる「許可返上要求」があったところで、どうして許可権者が「許可を維持しない方針を決定している」と評価できるのだろうか。

 これからは、行政事件でなくても、裁判所にも弁護士にも行政法の基礎知識は必要だ。

投稿者:ゆかわat 18 :44| ビジネス | コメント(1 )

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こんにちは。初めて先生のブログを読みました。
私は東京の法律事務所に勤めるパラリーガル志望の者です。

先生の記事は読みやすくとても興味深いです。
今後の更新、楽しみにしています。

投稿者: ゆうこ : at 2007 /04 /06 19 :12

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