2007 年07 月15 日
年金記録第三者委員会〜行政不服審査と苦情処理
年金記録第三者委員会が動き始めた。7月14日付日経朝刊によると、「社会保険庁に再審査を求めていたケースなど36件を審議した結果、15件について記録訂正を認める初めての判断を下した。」という。
社会保険庁に再審査を求めていたというのは不正確で、正確には社会保険審査会に対する年金不支給裁定に対する再審査請求である。これは行政不服審査法、国民年金保険法、厚生年金保険法に基づく行政不服審査だ。それに対して、年金記録第三者委員会と言うのは、総務省に設置された苦情あっせん機関だ。行政法の理解としては、行政処分に対する正式の救済(不服申立て)の手続が社会保険審査会に対する審査請求であって、総務省の苦情あっせんは、まさに単なる苦情処理の手続に過ぎず、正式の行政不服審査手続の俎上に乗っているケースについて苦情処理が口出しすることはないし、普通は、そんなことをしても聞き入れられない。ところが、年金記録救済に関しては、苦情処理が行政不服審査手続よりも優先しているということだから、行政法をかじっている人間としては、驚く他はない。年金に関することは厚生労働省の管轄なのに総務省が口出しをしてその「勧告」に社会保険庁が従うというのも、行政法のルールである行政担任原則破壊だ。しかも、この第三者委員会の「認定」は、過去の社会保険審査会の裁決をも全面的に覆すことになるものだから、裁決の不可争性という行政法のルールも関係ない。要は、国会が決めれば、行政法の理解なんて、そっちのけだ。そうやって考えると、行政法なんて、国会が何もしないときに初めて登場する補欠にすぎないし、行政法は救済の足かせにすぎない。
しかも、現在、総務省で行政不服審査法の改正の検討をしているが、この年金記録第三者委員会の経験に基づけば、行政不服審査法の改正なんて必要なくて、ただ行政苦情処理制度さえ充実すればそれで良いと言うことになる。これは、私の持論をそのまま実践するものだが、行政不服審査法検討会からすると、甚だ面白くないことだろう。
さらに言えば、年金記録第三者委員会で救済されることになった人たちは、果たして審査請求の他に第三者委員会に苦情申立をしていたのだろうか。仮に第三者委員会が勝手に記録を審査したのだとすれば、個人情報保護法の見地からも問題がありそうだ。
いずれにしても、これで明らかになったのは、国民の権利利益の救済のために弁護士の出番になるのは、国会が何もしないときに限られるということであり、その場合も様々な行政法の原理に照らして不可能なことも、国会にかかれば何でもOKということだ。国政選挙も、たまには役に立つ。
投稿者:ゆかわat 00 :23| ビジネス | コメント(1 )
◆この記事へのコメント:
◆コメント
現在の第三者委員会は決定権のない 総務省の下請け機関でわないか 国民の不満を和らげるための機関で 申し立てに対する斡旋にあたつての基本方針(総務大臣決定)を事務局員(総務省よりの出向者)で審査しているようです。
この基本方針は精神的なもので具体的ではない、ため申し立て件数の処理が出来ない、この秋の国会で具体的に解決策を決めなければ 解決できない、のが現状ではないか また解決のため 公正、公平を規するための調査で プライバシ-の問題は如何なものか、、、厚生年金被保険者(被害者)
投稿者: 斉藤 満 : at 2007 /09 /09 21 :02