自治体合同法務研究会・北九州
毎年、全国の自治体職員の有志で行われる研究会が今年は九州・小倉で開催されたので参加した。研究会の全体テーマは「いま、新たな地域自治へ」。自治基本条例が全国の自治体で策定され始めて、策定されるべき自治体は一巡したかなと思われるこの時期、自治基本条例の原点に立ち返りつつ、その深めと実践に向けて全体会と分科会が持たれた。
印象深かったのは、松下圭一教授が「自治基本条例を作るだけなら、自分の本を読んでくれれば1週間でできる。簡単に作るのではなく、なるべく時間をかけて作ってほしい」と会場発言されたことだ。自治基本条例が制定されたが首長が変わったため施行されることなく終わった事例もショックだったが、自治基本条例に管理職の宣誓義務を入れたために、首長が変わってもかろうじて自治基本条例が生き残っている事例など、自治の現場は一歩前進二歩後退だ。
これからの自治基本条例に何を盛り込むかというときに、コミュニティ=自治会・町内会・区を取り入れるかどうかという論点がある。木佐教授によると、自治会・町内会は行政末端機関として戦争の遂行にも協力してきた歴史があるために、行政法学ではこれまで触れることがタブーだったが、ニセコ町自治基本条例ではじめて「コミュニティ」を取り上げたということだ。
私はこれまでの弁護士業務の経験から次のような意見を会場から発言した。
自治会・町内会は任意団体だが、実際には、行政は自治会に対して重要な役割を分担させている。
@ 国勢調査の担い手 選挙投票用紙の配布
A 都市公園や公営駐車場等公の施設の管理委託の受託団体
B 開発の同意主体
Cゴミ収集のゴミ集積場の指定
行政は、今や自治会に対する役割分担を抜きにして行政活動を行うことはできないという現実を踏まえるならば、その位置づけを自治基本条例ですることが必要ではないか。
ところで、弁護士である私がこのようなことを言うのは、そこで起因する法的紛争が私のところに持ち込まれたからだ。
@ 府営団地に付設された府営駐車場の管理を自治連駐車場委員会が公社から委託を受けていたが、駐車場使用申込書のとりまとめもしていたところ、住民から提出された申込書を管理委員会が公社に取り次がなかった事例。そのため契約・使用できない。。
A 都市公園の管理を自治連体育振興会が委託されていたが、公園の前に引っ越してきた住民が「利用者の車や夜間まで子供が騒いでいてうるさい」という苦情を自治会に言っても受けてくれないので行政を相手に調停を申し立てた事例。自治連役員は学校統廃合の見返りに公園を受け入れた経緯があるし、公園に隣接して居住しているわけでもないから新住民の思いとの間に温度差がある。
B 開発指導要綱は開発許可申請にあたって地元同意書の添付を求めているところ、旧住民=農地所有者主体の自治会役員が開発予定地に隣接する団地=新住民の意向も聞かずに開発に同意した事例。後に開発許可取消訴訟となった。
C 区役員の意向に反対して区費を支払わない住民に対して村八分をして区のゴミ集積場を使用させない事例。
D 区長が県会議員の親族の経営する建築会社に会館工事を発注して、必要のない工事や水増し請求をさせて、いわば区の公金を横領した事例。
E 市議会議員を兼務する区長が区の会計も一手に引き受けていたのを悪用して区の公金を横領した事例。
現実の行政で重要な役割を与えられ、多額の公金も投入されているのに、その構成員である住民(特に新住民)と自治会(特に旧住民が役員となっている場合)の間で紛争が生じており、しかも、自治会内部の民主主義が機能しておらず、かつ、自治会の規約をはじめとする内部統制に不備がある場合は、その解決が極めて困難になっている。自治会内の内部統制ルールの確立、民主的運営の確立に行政が関与すべきであり、自治基本条例にも自治会が民主的統治ルールを採用すべきこと、あるいは自治会の基本的民主的構造を明確に定めるべきではないか。
「草の根民主主義」の草の根が枯れかかっている。草の根を大切に育て上げる力・取組が問われている。パネリストが言っていたが、これまで実は当然の前提としていた「地域自治組織の意思決定システムの再構築」が必要な時期が来ている。
投稿者:ゆかわat 21 :01| ビジネス | コメント(0 )