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2009 年12 月19 日

開浄水場休止差止請求事件京都地裁判決批判(その5)

 平成16年行訴法改正の前後から、最高裁は、少しずつではあるが、従来の行政法判例を見直し、国民の権利利益の救済のために足を踏み出しつつある。ところが、それに対し、地裁は、一方で国民の権利利益をさらに一歩踏み出す判決もあるが、依然として旧態のまま亀の冬ごもり状態にある。

 この度、横浜市が保育所を民営化するために保育所を廃止する条例を制定したことについて当該保育所で保育を受けていた児童又はその保護者が当該条例の取消し等を求めた取消訴訟において、最高裁は、平成21年11月26日判決で、条例の制定行為につき抗告訴訟の対象となる行政処分に該当するとの判断を示した。同判決は、その理由付けにおいて、「特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は、保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有する」旨判示した。

 保育所の設置根拠たる児童福祉法も、水道法と同じく、児童及びその保護者に特定の保育所で保育を受ける権利を保障するという明文を有していない。それどころか、児童福祉法は、市町村の責務として、保護者の労働又は疾病等の事由により保育に欠ける児童に対して保育を実施する義務を認めているのみであって(保育は権利としてではなく、恩恵的に「措置」として行われる)、児童に特定の保育所における保育を受ける権利を保障する構造を持っていない。
 しかし、上記最判は、児童福祉法が平成9年改正において、児童の保護者が入所を希望する保育所等を記載した申込書を提出して申込みをしたときはやむを得ない事由があるときを除きその児童を当該保育所において保育しなければならないという制度を採用した(このことを評して、保育の実施は契約に基づくものに変更されたと説明されている。「社会保障法[第4版]」295頁、有斐閣)ことを根拠に、児童及びその保護者と市町村との間に契約類似の関係があることを媒介として、特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者に当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を認めた。

 そうすると、もともと措置方式ではなく契約方式を採用している給水事業については、需用者の権利をより保障しているものと理解されるのであって、水道事業者にどの浄水場の水を供給するかの自由があるのではなく(需用者には水の選択について何の権利も認められないのではなく)、需用者が特定の浄水場の水を選択したと見られる場合には、特定の浄水場の水の供給を受ける権利が認められるものと言うべきである。

ところが、判決は、「保育所の利用関係が、保護者の選択に基づき特定の保育所を定めて設定されるものであるのに対して、本件においては、水道法の解釈上、給水契約が、特定の給水施設を定めて設定されるとは解されない」として、原告らに開浄水場からの給水を受けることを期待し得る法的地位を認めることはできないとした。

最高裁判決と比べて、何と保守的な判断であろうか。

 児童福祉法の平成9年改正により、サービスの内容を行政処分により決する措置制度から、利用者と提供者の契約により行政が公的サービスを提供する契約制度に切り替わった。この改正の趣旨は、福祉サービスを利用者本位の仕組みに改めるものだ。すなわち、利用者本位の福祉サービスの向上を図るために、行政処分方式ではなく契約方式が採用された(法的には契約的要素を取り入れた措置制度)のである。このように「契約方式」は、利用者本位のサービス向上(給付内容を一律のものではなく、利用者の意向を重視して、それを盛り込んだものにする)のために採用される。

 水道法が下水道法のような仕組みをとらずに、「給水契約」方式としたのは、そのためなのである。それであれば、特定の保育所の保育を受けることを期待しうる法的地位が認められるのであれば、特定の浄水場の水の供給を受ける法的地位は、法律上当然承認されなければならない。
(12月25日追記)

投稿者:ゆかわat 07 :30| ビジネス | コメント(0 )

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