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2010 年01 月14 日

児童手当の県負担拒否 神奈川県知事

 3年生秋学期のゼミ「地方自治の法と政策」では、毎回、冒頭に、学生から近時の地方自治に関する時事問題を5分程度で報告してもらうことにしている。今日は、学生から、子供手当の地方負担に反対してきた神奈川県知事が県の2010年度予算案に児童手当の県負担分を盛り込まない方針を明らかにしたという報告があった。授業ではその報告をめぐって次のような議論をした。

 児童手当法は、3歳未満の児童又は3歳未満の児童を含む2人以上の児童の保護者につき、市町村長がこれを認定した者に対して児童手当を支給するものと定めている(法4条〜8条)。したがって、神奈川県が児童手当の支給に要する費用を予算計上しなくても、市町村は児童手当を支給しなければならない。法の上では、児童手当に要する費用は国と都道府県と市町村が三等分することになっている(法18条等)から、神奈川県がこの負担分を予算計上しないと、困るのは市町村である。

 それでは、県が法律で定める負担額を負担しないときは、市町村はどうすればよいのだろう。訴訟を起こすのだろうか。仮に訴訟を起こすとしたら、どういう訴訟なのか。行政内部における費用の負担の実情がどうなっているのかは私にはさっぱり分からないが、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟ということになると、これは機関訴訟(行政事件訴訟法6条)ということになり、法律に定める場合にしか認められない(同42条)。

 しかし、児童手当法では、費用の負担者は「国庫、都道府県及び市町村」とあって、それぞれの長ではないから、「機関」相互間の紛争には当たらないのだろう。そうすると、市町村が神奈川県を相手取って、費用負担に関する公法上の当事者訴訟を提起するか、あるいは県知事が費用負担しないことが違法であるとして国家賠償請求訴訟をすることになるのだろうか。いずれにしても、困るのは市町村である。

 それでは、神奈川県知事のいうように国地方係争処理委員会に審査の申出ができるのだろうか。地方自治法によると、国地方係争処理委員会への審査の申出は、「普通地方公共団体の長その他の執行機関が、その担任する事務に関する国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるものに不服があるとき」に、当該国の関与を行つた国の行政庁を相手方としてできるものである(250条の10)ところ、神奈川県知事の不服は国の「処分」にあるのではなく、国の政策決定ないし法律の内容にあるのであるから、残念ながら、国地方係争処理委員会に審査の申出をしたところで、整備新幹線の費用負担に関する新潟県知事の例のように却下されることになる。
 
 神奈川県が国を相手取って行うとすると、児童手当法や子供手当法の費用負担に関する部分が違憲違法であるとして規範統制訴訟(法律の違憲違法確認訴訟)を提起するか。しかし、これもこのような訴訟類型はないとして却下されるになる。そうすると、神奈川県知事としては、一旦児童手当の県負担部分を予算措置をして現実に支出した後、国に対して国家賠償請求を提起することになろうか。

投稿者:ゆかわat 23 :14| ビジネス | コメント(0 )

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