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2006 年6 月11 日

廃棄物処理ノート(2)

最高裁平18.1.16決定から。

 木くず等の産業廃棄物の排出事業者Aが、産業廃棄物収集運搬業の許可業者に、処分費込みの処理費を支払って廃棄物を処分場に持ち込んで処分するよう委託したところ、その収集運搬業者は実際には処分場に持ち込むことなく自ら野焼きや不法投棄をするなどして無許可で産業廃棄物を処分していた。そこで、Aは無許可業者に対して処分を委託したとして刑事処分を受けた。被告人Aは、収集運搬の許可業者に対してその処理を委託したのであり、収集運搬業者が正規の処分場に持ち込んで処分していると考えていた旨弁解した。高裁はその弁解を認めて無罪としたが、最高裁は、「法12条3項の規定に違反して産業廃棄物の処理を他人に委託したというのは、法12条3項所定の者に自ら委託する場合以外の、当該処理を目的とするすべての委託行為を含むと解するのが相当であるから、その他人自らが処分を行うように再委託することを委託する場合も含み、再委託先について指示いかんを問わない」旨述べて、有罪とした。

 排出事業者はその排出する産業廃棄物を他人に委託して処分しようとする場合は、処分業者の処分場まで自ら運搬するのでない限り、第三者に処分場までの運搬を委託することになる。その場合は、収集運搬業者への収集運搬の委託と処分業者への処分の委託をしなければならない。その委託は排出事業者自らが行わなければならないが、実際には、未だに収集運搬業者との間でだけ委託をし、処分業者への委託は収集運搬業者に一任していることが多い。法的には、これは収集運搬業者が排出事業者の代理人として処分業者に委託することになるはずだ。収集運搬業者が自ら処分することを了解していない限り。

 上記事案でも、被告人Aは収集運搬業者が処分場まで運搬して処分すると思っていたというのだし、その処分費も収集運搬業者に渡しているのだから、「収集運搬業者が他の者に処分を再委託する場合」には当たらないはずだ。しかも、被告人Aは収集運搬業者に処分を委託したのではないから、収集運搬業者が他人に処分を委託することは「処分の委託」であって「処分の再委託」には当たらないはずだ。
 上記事案では、収集運搬業者を代理人として他人に処分を委託しようとしたところ、収集運搬業者が自ら処分をしたということだから、結果的には無許可業者に処分を委託したことになるが、被告人Aにはその故意はなかったということだ。法12条3項違反が故意犯のみを処罰するのであれば被告人Aは故意がないから無罪となるが、廃掃法は行政法規であるから、その処罰規定も、過失犯をも処罰する趣旨だと解すれば、故意がなかったとしても有罪となる。

 最高裁も、「委託」の解釈ではなく、過失犯の処罰の問題として処理すれば足りたのではないか。

投稿者:ゆかわat 18 :47 | ビジネス | コメント(0 ) | トラックバック(0 )

2006 年6 月4 日

最高裁判例紹介〜最高裁平17.12.8第1小法廷判決

拘置所に勾留中のXが脳梗塞を発症したが、拘置所内で十分な手当てを受けることができず、速やかに外部の医療機関へ転送されなかったため重大な後遺症が残ったとして国家賠償請求をした事案で、最高裁は、速やかに外部の医療機関へ転送されていたとしても、重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の立証がないとして請求を棄却した。

事案は、こうだ。Xは住居侵入罪で逮捕されて東京拘置所に勾留されていた。おそらく、警察・検察での捜査が終わり、起訴された被疑者であったのだろう。まだ有罪判決が確定した囚人ではないし、起訴されただけだから、無罪推定の原則が働く。ところが、日曜日の朝、午前7時30分頃、拘置所職員が起床の点検巡回中、Xが起床の作業をせず、上半身を起したままの状態でいたので、その数分後に職員が声をかけたが、Xは言葉にならない返答をするだけだった。そこで、職員が医務部に連絡し、午前8時頃に医務部に運び込まれた。母親が脳梗塞で倒れた経験を持つ私としては、医務部に運ばれるのに30分も経っていること自体がけしからんと思うが、判決では何も触れられていない。その時点で当直の医師が確認したところ、脳内出血又は脳梗塞の疑いがあり、午前8時10分頃、拘置所内の特定集中治療室に収容された。そして、午前8時30分頃、以後の治療に備えて血管及び尿路確保等の緊急措置を受けた。どうやら8時30分が当直医の交代時間らしく、先の当直医は後の当直医に、脳内出血又は脳梗塞が疑われること、CT撮影で原因の確認をする必要があることの引継ぎをした。ようやく午前9時3分頃、CT撮影が行われた。しかし、8時から9時までのこの経過は、緊急措置としては遅すぎるのではないか。

それはともかくとして、この9時のCTの画像では、脳に低吸収域が認められ、この時点では、既に血栓溶解療法の適応がなかった。最高裁判決は、仮に午前8時の時点でXを外部の医療機関に転送する手続を開始しても、受け入れの承諾を得て、救急車で運送するには一定の時間を要し、CT撮影をするにも一定の時間を要するから、転送先で血栓溶解療法を開始することが可能であったとは認められないとした。確かに客観的に見ればそうかもしれない。しかし、やるべきことをやるべき時にやったのにだめだったと言うのと、やるべきことをやらなかったというのとは雲泥の差があるのではないか。少なくともやるべきことをやるべき時にやらなかった者に所詮やってもだめだったのだからという言い訳を許すのは、まるで官僚答弁を聞くようで虫唾が走る。

判決文を見ていても、どうやらこの点で最高裁内部でも激論が戦わされていた感がある。
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投稿者:ゆかわat 08 :04 | ビジネス | コメント(0 )

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