ある民事訴訟
私が地裁の途中で、それも後半で受任した民事事件がある。
機械代金の請求事件だ。私の依頼者は機械の買主で代金を半分しか支払っていないので、訴訟を提起された。代金を支払わない理由は、機械の不具合、手元不如意。前任の弁護士が機械の瑕疵を主張するが、具体的な瑕疵の主張をなかなかしなかった。それで途中で私が交代してから機械の瑕疵の調査鑑定をさせたが、裁判所は既に時機遅しで鑑定書も見てくれない。
裁判官は、そもそも訴訟になるまでに瑕疵修補や瑕疵による解除の主張をしたのかを題にする。依頼者は何度もしたが請け合ってくれなかったというのだが、じゃあ、代金の支払い請求を受けて機械の瑕疵があるから契約解除だという主張をしたのか、またそのような主張をしたという書証はあるのかと問い返されると、田舎の会社のおんちゃんだから、契約解除なんかそんな制度すら知らないし、内容証明郵便なんかで瑕疵の主張をするはずもない。電話だけというと、裁判官は瑕疵担保責任の時効が完成しているから、瑕疵の内容は調べる必要はないという。それでやむなく瑕疵の内容の証拠調べをすることもなく結審。判決は案の定依頼者の敗訴。
でも、鑑定書によれば、機械は設計にそもそも問題があり、生命身体の安全に害を及ぼしかねないものだった。そんな機械の契約は瑕疵だとか言う前に、そもそも錯誤・公序良俗違反で無効ではないか。さらに、調べてみれば、他に流通している台数は2台だけで、そのうちの1台もまともに動いていないということが分かった。そこで、控訴審でそれらを改めて主張したら、控訴審のこの段階でそんなそもそも論をされてもどうしようもない、1審の時点でそういう主張をされていれば調べただろうが、地裁は入口の問題ではねたので、そのような判断も不合理ではないから、1審判決が出たことを前提として控訴審は動かざるを得ないと言われた。
なんかもっともだが、しっくりこない。最初に頼んだ弁護士と地裁で当たった裁判官のくじ運の悪さは自己責任ということか。それが民事訴訟なのだろうか。アメリカのように民事訴訟もゲームだと割り切ればそうなのかもしれないが、民事訴訟というのは、当事者双方が弁論を尽くし、公平な第三者たる裁判官がその争訟を裁断するというものであるはずだ。それが司法のはずだ。少なくとも憲法の予定している司法はそうだし、授業でもそう教えている。
訴訟の迅速化の要請も、主張・証拠の適時提出主義も、司法を否定するようなものであってはならない。それなのに、今の裁判は、全く形骸化していて、およそ司法という理念からはほど遠いものになっていないか。
投稿者:ゆかわat 20 :02 | ビジネス | コメント(0 )
ある修習生との民事裁判についての会話
以前、民裁修習中の修習生と話をした。彼は「この前はひどい弁護士にあたった。これでは依頼者がかわいそうだと思った。準備書面に引用されている証拠の証拠番号は間違っているし、時期も書証と違っているし。それに対して、相手方の陳述書は完璧で反対尋問の必要もないくらい。証拠調べをするまでもなく心証がとれちゃいます。」
おそらく、これが今の裁判官の事件の見方なのだろう。しかし、私からすればこんなものは民事裁判でも何でもない。
主張と証拠が対応しているかどうかをチェックするのは裁判官の仕事であって、代理人の仕事ではない。陳述書なんか、弁護士の作文なのだから、そんなもので心証が取れるはずがないし、そんなもので心証を取るのであれば、準備書面=主張だけで事実認定しているようなもので、証拠裁判主義の否定だ。
今の裁判はおよそ訴訟になっていない。地裁では証人の数は絞って一人か二人しか調べない。それでいて高裁では1回結審でしい証拠調べなんかしない。民事訴訟法改正は1審での審理充実が目的であったはずなのに、ただの拙速主義に陥っている。それでいて、主張整理だの争点整理だのといって弁護士の準備書面だけをもとに争点を絞り込み、証拠調べをして本当の事実が出てきても、もう新しい証拠の取調べはしない。馬鹿じゃないかとしか言いようがない。これが機能するのは弁護士が全部事実関係を把握している場合に限られる。ところが、弁護士は自分の依頼者本人の言い分しか分からない(そもそも依頼者も自分の弁護士に対してであっても自分に不利なことを自発的に伝えるはずもないし、人は自分に関心のあること・都合のいいことしか覚えていないものだ)し、相手方の言い分はもちろんのこと、第三者の言い分は分からない。そんな状況で適切な争点整理ができると思っているのが間違いである。弁護士の準備書面をもとに争点整理をするぐらいなら、早い時期に関係者を集めて、証人尋問なんて形式にとらわれずにとにかく言い分を出させればいい。そうすれば事実関係の全体像が明らかになるし、どの点を詳細に調べるべきかがおのずと絞り込まれる。その方が当事者の納得度ははるかに高いはずだ。