名古屋MKタクシー名古屋地裁判決
5月31日、名古屋地裁でMKタクシーが国(中部運輸局長)を相手取って起こした行政訴訟の判決が出た。
この事件でMKタクシーは、?乗務距離規制(1日あたり270km)をした公示の取消し、?乗務距離最高限度を超えても乗務させることのできる地位の確認、?乗務距離規制違反を理由とする処分の差止め、?自動車の使用停止処分の取消しを求めた。それに対し、この判決は、タクシー事業について乗務距離規制をすること自体は輸送の安全確保のために必要性合理性ともに認められるけれども、名古屋交通圏については規制をするまでもなくすでに乗務距離が減少していたから乗務距離規制をする必要性もなかったのに乗務距離規制をしたことが違法だと判断して、?と?と?の請求を認めた。画期的な判断だ。
この判決の一番のポイントは、法律の乗務距離規制の趣旨を読み替えたところにある。
乗務距離規制の根拠規定は規則22条にあるところ、その規則は昭和33年に制定されており、その当時その規制はタクシー事業の需給調整にあった。
ところが、平成12年に当時の規制緩和の一環としてタクシー事業の需給調整規制は廃止されることになった。
ところが、平成21年に、タクシー事業の適正化・活性化の名の下にタクシーの供給過剰改善をその目的とするタクシー特措法が制定された。事実上の需給調整の復活と言われている。名古屋交通圏につき乗務距離規制がされたのは平成21年10月の中部運輸局長の公示によるもので、タクシー特措法を背景とするものであることは明らかであった。平成21年特措法の趣旨をどう解釈するのか。それによって規則22条の解釈はどう変わるのか。
乗務距離規制が昭和33年制定時の需給調整にあるのであれば、裁判所としては運輸局長の判断を尊重せざるを得ない。タクシー業界の既得権益を保護することも認められる。
しかし、平成12年の需給調整規制の廃止により、乗務距離規制の目的は、需給調整の考えの大元にある輸送の安全確保に変わったのだと考えると、乗務距離規制がタクシー事業の営業の自由に対する相当程度の制約をもたらすものであることも十分に配慮した上で輸送の安全確保を図るものであるかどうかを検討することが必要となる。業界の既得権益の保護ではなく、新規参入業者の営業の自由に対する規制がどこまでなら許されるのか。それはすなわち、タクシー利用者・消費者利益の保護にもつながる。
この判決は、タクシー特措法の下でも従来の需給調整規制の時代の法解釈は復活しないと判断したものと理解できる。司法が行政の判断をチェックした「英断」である。