行政法の理解不足?
金融法務事情という法律雑誌がある。その名前のとおり、金融関係の法律雑誌だ。そこに東京地裁平18.7.28判決が紹介されていた。
事案は、宅地開発にあたってゼネコンが宅地開発会社の銀行借入を保証したが、その保証には、開発許可が出たら保証は免責する、但し、将来、許可対象の行為の変更、中止、廃止、その他の事由(中止命令を含む)により宅地開発会社が開発行為を進めることができなくなったとき等は保証債務は免責されないという特約が付されていたところ、宅地開発会社が解散・特別清算手続きを行うことになったため、許可権者から再三にわたり許可の返上を求められていたので、銀行はこれは実質的な中止命令にあたるから保証債務は免除されないとして保証債務の履行を請求した。
東京地裁は、本件保証債務免除解除合意は、許可対象土地の担保価値変動に対応するための合意であって、担保価値に影響を及ぼすべき事情があるときは保証免除されないところ、許可権者が環境局自然環境部長・都市計画部都市防災部長・産業労働局農林水産部長名で開発許可返上を求める文書を交付しているから、許可権者は宅地開発会社に対する開発行為許可を今後維持しない方針をとっているといえるから、このような状態は本件保証解除合意の「その他の事由」にあたるものということができるから、保証債務は免除されないと判断した。
ところで、この判決を読んで、おやっと思った。裁判所もゼネコンも銀行もそれらの代理人も行政法をご存じないのではないか。
まず、最初に、判決では、「東京都」は宅地造成事業の開発行の許可をしたと記載されているのだが、許可権者は「東京都知事」であって「東京都」ではない。
次に、「許可の返上を求める文書を交付した」ことが決定的な決め手になっているが、開発許可の要件には「申請者の資力・信用」が入っているが、それが開発行為中に喪失した場合の開発許可取消は、実は都市計画法は定めていない。これは法の欠如であるが、法文にない以上、許可権者といえども勝手に許可を取り消すことはできない。もしかすると、許可書の裏側に許可条件として「資力・信用が失われたときは許可は取り消されます」と記載されているのかもしれないが、法に定めのない取消を附款として定めることは違法であり無効である。だから、許可権者はやむなく「許可の返上」を行政指導したのだ。いかに東京都が「開発行為許可を今後維持しない方針をとっていた」とはいえ、許可を取り消すことはできないのである。したがって、宅地開発会社がその許可を受けた地位を譲渡すれば、許可権者もこれを承認せざるを得ないのであって、許可対象土地の担保価値に影響は及んでいない。
しかも、私は東京都のことはよく知らないが、開発行為の許可権限は誰に専決または委任されているのだろう?宅地開発会社に開発許可の返上を求めた「環境局自然環境部長・都市計画部都市防災部長・産業労働局農林水産部長」が許可権者なのだろうか。どうもいずれの部長も違うような気がする。だとすると、開発許可権限のないものによる「許可返上要求」があったところで、どうして許可権者が「許可を維持しない方針を決定している」と評価できるのだろうか。
これからは、行政事件でなくても、裁判所にも弁護士にも行政法の基礎知識は必要だ。
投稿者:ゆかわat 18 :44
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最高裁判例ノート〜被爆者援護法健康管理手当消滅時効事件
最高裁第三小法廷(藤田宙靖裁判長)平19.2.6は,被爆者援護法等に基づく健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が出国に伴い支給を打ち切られた健康管理手当の支給を求める訴訟において,被告自治体が地方自治法236条所定の消滅時効を主張することが信義則に反し許されないとした。
地自法236条1項は,金銭の給付を目的とする自治体の権利及び自治体に対する権利は,時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか,5年間これを行わないときは時効により消滅すると定め,同条2項は,前項の時効消滅については時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することができないと定める。
行政では,従来,この条文を根拠に,5年以上前の金銭債権の支払には応じてこなかった。たとえば,私が担当した事件で、小規模住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例の不適用事案につき,5年を遡る返金を拒否する理由がこれであった。そこで,やむなく,この種事案では,国賠で5年以上前のものを請求をしてきた。
それを,本件は,行政による消滅時効の主張を信義則によって制限するという手法をとった。この法理は,もともとは,時効については「援用」というワンクッションを置くので,その「援用」を制限するという手法として考えられた。ところが,地自法が時効の「援用」を要しないとしているため,行政は消滅時効の信義則による制限は行政相手にはとりえないと言ってきた。それを否定したのだから、極めて画期的なことだ。
それも,法廷意見では,「自治体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定される」とか,「本件のように,自治体が,基本的な義務に反して,既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し,法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱をし,その行使を著しく困難にさせた結果,これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合」に限って消滅時効の主張を制限するんだということを述べているが,藤田裁判長は,「住民が権利行使を長期間行わなかったことの主たる原因が,行政主体が権利行使を妨げるような違法な行動を積極的に執っていたことに見出される場合にまで,消滅時効を理由に相手方の請求権を争うことを認めるような結果は,そもそも同条の想定しないところと考えるべき」との補足意見を述べて,法廷意見よりもう一歩進めた一般的な言い方をして敷衍しているところからすると,消滅時効の主張制限の適用場面はもう少し増えてくるのではないかと思われる。
たとえば,先の固定資産税の例でも,税務課の職員が「訴訟を起こされても良いですが,訴訟を起こしてもまず認められませんよ。」と窓口指導をしていたような場合は,時効の主張制限が認められるのではないか。
最高裁には、もっと行政の適法性確保のルールづくりに努めて欲しいものだ。
投稿者:ゆかわat 00 :52
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廃棄物違法委託事件
先日、廃掃法違反被告事件の高裁判決を受けた。事案は,軽油密造に伴う硫酸ピッチの違法処分の委託及び受託行為だ。その数合計してドラム缶300本以上だ。しかも,執行猶予中の再犯だから、懲役3年は覚悟していたが、大津地裁で、求刑が懲役4年,罰金400万円のところ、懲役3年6月,罰金400万円の判決を受けた。3年半は重い。確かにやったことは悪いが、それで利益を得たわけでもないし、頼まれ仕事だし、私が弁護人について,廃棄物の適正処理にも着手させた。それなのに、それを全くしないのと同様の判決だから,弁護人のやる気も何もかもなくさせるほど重い量刑だ。一般に、オウム事件以来、裁判所では重罰化が進んでいる。その中でも、大津地裁は、私がちょっと見た限りでも、量刑が検察の求刑にひきづられて重いものが多い。
しかし、そのような地裁判決であっても、それに対して控訴するのは、はっきり言って博打ものだ。量刑不当で控訴はできるとは言っても、高裁も地裁も同じ「裁判官」という同僚が担当しているわけだし、高裁では地裁と違って記録を見るだけで被告人や証人から詳しく事情を聞くわけでもないから、高裁の裁判官とて少々刑が重いかなと思う程度では原判決を破棄して刑を軽くすることはない。仮に控訴棄却となったときは、控訴期間余計に拘束されることになる。これなら破棄できる、という材料をどれだけ提示することができるか。
先日は、交通事故で被害者を死亡させた事件で、1審判決後にさらに被告人に被害者遺族に謝罪に行かせ,30万円でも自腹を切って見舞金を支払わせるようにし,被害者遺族がその受領を拒否するとその金額を法律扶助協会に贖罪寄付させたが,結局,実刑のまま,その刑期も負からなかった。
今回も,1審判決後に,さらに廃棄物処理のための費用を負担させたが,100万円程度しか高裁弁論終結前には用意できなかった。廃棄物処理費用は総額で1000万円以上を要した(既に行政代執行済み)から,とりあえずその1割しか支払えていない。
やっぱりだめか,と思ったが,高裁では、刑期を半年軽くしてもらえた。半年であっても,被告人もその家族も喜んでくれたようだ。これで早く出所して,廃棄物処理費用を全額行政に返済してくれるなら,これに勝る幸せはない。
次に思うのは,廃掃法事件の罰金併科ももう少し何とかならないのか、ということだ。県廃対課からは、早くごみを処理してくれ、代執行費用を納めてくれと言われるが、罰金を納めたらごみの費用は出てこない。そもそも,廃掃法違反事件を起こすような被告人はそんなにお金を持っているわけではない。お金がないからこそ,廃棄物の違法処理で金を稼いでいる。そんな被告人から罰金で多額のお金をとると,廃棄物処理ができなくなる。むしろ,廃棄物処理のために金員を支出した者は,その分罰金を免れるような制度ができないものか。そうすれば,被告人も進んで廃棄物処理をするだろう。道路交通法の駐車禁止車両に対する放置違反金の制度も,本来は,反則金や罰金を納付すべきところを放置違反金に置き換えたものだ。同じようなことを,廃掃法の世界でも是非とも考えてほしいものだ。
投稿者:ゆかわat 00 :44
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