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2009 年5 月30 日

取消訴訟における第三者の原告適格

 判例評論602号2頁(判例時報2030号148頁)に大沼洋一駿河台額教授「場外車券発売施設設置許可処分の取消訴訟と周辺住民及び施設の設置者の原告適格ー原告適格に関する最高裁理論の整理と若干の検討ー」と題する判例評釈が載っていた。

 取消訴訟の原告適格に関する判例理論及び改正行訴法の立場(当該行政処分の根拠法令及びそれと目的を共通にする関係法令が、第三者の利益をもそれが帰属する個々人の個別具体的な利益としてもこれを保護する趣旨と解されるときは、当該第三者も原告適格を有する)を、ドイツの保護規範説をもひもときながら、「第三者の個別的利益への考慮」が当該処分の要件となっているからだ(要するに、法令には明文の要件として規定されていないが、法令解釈としてそのような考慮義務を要件として読み込むという考え方。但し、考え方としては、このように第三者の利益考慮が処分要件になっていると解する考え方の他に、裁量判断における考慮事項となっているという考え方もあり得ると思われる。)という視点から細かく検討して整理しておられる。私としては、目から鱗のように、なるほど!と納得できた。

 しかし、大阪高裁判決平20.3.6の判例評釈としては、理論的には精緻だが、何のための判例評釈なのかとの感を禁じ得ない。
 競輪の場外車券場の設置が周辺環境を害するとしてその設置の取消を求めた訴訟につき、大阪高裁が条文の規定や通達を根拠に、周辺医療施設や文教施設の設置者の他に、周囲1000m以内に居住し事業を営む住民の原告適格をも肯定したのに、この判例評釈では、法体系の中に明文の規定がないとか通達に記載されていても通達は法規ではないなどという理由でその判旨に反対している。しかし、そのように批判することに何の意味があるのだろうか。数多くの裁判所はいまだに第三者の原告適格を否定して訴えを却下することに汲々としているのだ。それを打ち破る努力、理論をこそ学説はすべきではないのか。

 そもそも行政法規を制定するのはお役所である。お役所が自分たちの首を絞めるような規定を置くはずがない。行政活動に対する国民の不服申立を裁判所として取り扱うのか、そしてその申立を認めて行政活動を是正するのかどうかというのが行政訴訟である。裁判所の物差しを行政法規のみに求めたのでは、裁判所の登場を待つまでもない。不服申立が認められるはずがないのである。行政法規を裁判所の目で見直し、あるべき行政法規を適用することこそが裁判所に求められているのではないのか。法律に書いてないからあなたは救済できませんというのであれば、裁判所は要らない(もっとも、そんなことを言う奴は裁判所には要らないということらしいが)。

投稿者:ゆかわat 23 :29 | ビジネス | コメント(0 )

2009 年5 月27 日

郵便不正 厚労省係長逮捕

 今朝の朝刊に郵便料金割引制度を悪用した郵便法違反事件で、大阪地検特捜部が厚労省の内部決裁文書を偽造したとして厚労省係長を虚偽有印公文書作成・同行使容疑で逮捕したという。

 新聞報道によると、決裁担当者の印影が押された白紙の用紙を使って内部文書を偽造した疑いという。しかし、内部決裁文書は外部に出すことを予定していないのだから、虚偽の「公文書」を作成したとして違法性があるのだろうか。

 そもそも決裁印の押された白紙の起案文書があると言うことは、事実上、当該係長に権限が専決されていたということであって、決裁者も了解しているということだから、印を冒用したということにはならないのではないか。

 無理筋の事件という気がしてならない。

PS 夕刊を見ると、「白山会」代表が「民主党参院議員の事務所関係者を名乗った」と供述しているとの報道がなされているところを見ると、またぞろ、選挙が近づいてきたことを意識しての民主党つぶしだろうか。
 それとも、厚労省捜索をして何かめぼしい物を渉猟することを目的としたがさ目的の逮捕だろうか。

投稿者:ゆかわat 23 :28 | ビジネス | コメント(0 )

2009 年5 月23 日

クラゲになれない差止訴訟

 行政事件訴訟法の平成16年改正で新たに行政処分の差止めの訴えが設けられた。ところが、これが機能しない。
 大阪地裁平成19年11月28日判決(判例地方自治315号73頁)は、タクシー運転手が信号無視で運転免許停止処分(第一処分)を受け、その後再度信号無視をしたため再度の運転免許停止処分(第二処分)を受けることとなり、その旨の意見聴取の通知を受けたことから、第一処分の取消と第二処分の差止めを求めて訴訟を提起したという事案だ。

 大阪地裁は、「一定の処分がされることにより損害を生ずるおそれがある場合であっても、当該損害がその処分の取消しの訴えを提起して執行停止を受けることにより避けることができるような性質、程度のものであるときは重大な損害を生ずるおそれがある場合には該当しないから差止めの訴えは認められない」との一般論を述べた上、第二処分を受けたとしても自動車の運転を伴わない他の業務に就くことまで禁じられないし、第二処分の取消訴訟を提起して執行停止を求めることは妨げられないし、執行停止が認められなくても後に第二処分が取り消されれば別途損害賠償請求訴訟を提起すれば足りるから、差止めの訴えは認められないとした。

 こんな論理を使えば、差止めの訴えが認められるようなケースというのはよほどの事情のある例外的な事案に限られよう。差止めの訴えが法律に明記された(判決でも、差止めの訴えは国民の権利利益の救済の実効性を高めるためにあるとその意義を高く認めている)とはいえ、ただの伝家の宝刀に格上げされてしまった。

 ちなみに、この論理で行けば、第二処分の取消訴訟を提起してその執行停止を申し立てても、本案で勝訴してから損害賠償請求訴訟を提起すれば良いと言って執行停止すら認められないだろう。

 実際、私が経験したところでも、区画整理における仮換地指定処分の執行停止を求めた事案でも、財産的損害だから事後的に損害賠償請求をすれば足りるという理由で簡単に却下された。こういう裁判官は、自分の土地が収用されても、後にお金が返ってくればよいと言うのだろうか。お金が返ってきても先祖代々のその土地は返ってこないのに。

 改正行訴法は着実に骨抜きされつつある。否、まだ骨もできていないか。クラゲにすら骨はあるから、クラゲにもなれない・・・

投稿者:ゆかわat 07 :22 | ビジネス | コメント(0 )

2009 年5 月20 日

日本郵政社長続投で正面突破

 郵便局ネタの続き。
 5月19日日経朝刊に「日本郵政の指名委員会は西川社長の続投を支持することを決めた。取締役を認可する権限を持つ鳩山総務相がけん制を続けた中での正面突破。総務相は、財界や政界が反対しても、最後の一人になるまで戦う」と述べ、認可しない可能性をにじませた」との記事が載っていた。

 日本郵政株式会社法9条は「会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない」と定める。
 しかし、認可権があれば、総務相の腹一つで認可するしないを決めることができるのか。

 確かに法律には認可基準は規定されていないが、監督官庁としての監督権の行使であっても合理性の基準は満たされなければならないし、認可権者のフリーハンドの自由裁量が認められているわけではない。したがって、総務相がいくら「最後の一人になるまで戦う」と言ったところで総務相の気に入らないから、総務相が辞めさせると決めたから認可しないというのでは合理性がない。

 それでは、昨年11月に公表されるべき中長期経営計画が未提出であるとか、かんぽの宿の譲渡の過程が不透明であったということで、認可しないことの合理性があると言えるのか。

PS 20日夕刊を見ていると、総務相は「そのような経営をしてきた方の責任、適格性があるかどうかは厳しく判断しなければならない」と述べたという。問題は、「そのような経営」というのが何を指すのかだ。「そのような経営」という「あの、その語」の世界ではなく、具体的な基礎となるべき事実を明示することが必要であろう。

投稿者:ゆかわat 22 :40 | ビジネス | コメント(0 )

第三種郵便不正事件

郵便事業鰍フ新大阪支店長や新東京支店総務主任が逮捕された。
 ところで、日経新聞の記事では、支店長は「DMが制度利用の要件を満たさないことを知っていたが、承認するかどうかは近畿支社などが審査することで自分が考えることはないと思った」と供述しているという。

 行政法をかじっている人間からすると、支店長や総務主任には第三種郵便の承認の権限(委任や専決の権限)があったのだろうか、疑問に思う。
 それとも、刑法理論からすると、権限なんかなくても、権限ある者との身分なき共謀共同正犯だということだろうか。

 それとも、弁護士的なうがった見方をすると、権限者を逮捕するために事情をよく知っていそうな者をとりあえず締め上げるための自白強要目的の逮捕だろうか。

PS 夕刊を見ると、DMの審査に関与した新大阪支店等4支店の職員約50人の大半が違法性の認識を認めているという。しかし、これは一体どういう意味を持つのだろう?みんな知っていたのだから、権限者が知らないはずがないという立証に用いるのだろうか。

投稿者:ゆかわat 22 :33 | ビジネス | コメント(0 )

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